月――だんだん遠くなっていく・・・・・・

 

菜の花や月は東に日は西に    与謝野蕪村

安永3(1774)年、現在の神戸市灘区にある六甲山地摩耶山(まやさん)を描写した句だそうです。一面に広がる菜の花畑の黄色と、夕日の紅、そして反対側の空に出てきた暗い青に煌々と輝く月……。とても幻想的ですね。
月は昔から人々の注目、関心を集めてきました。多くの人が月を詠んでいますがとりわけこの句が私のお気に入りです。

今回はそんな月に関してのお話です。

皆さんは月が毎年少しずつ地球から離れていることをご存知でしょうか?
年におよそ3㎝の速度だそうです。
では月はいずれ見えなくなってしまうのか……?
その答えを知るために、まずはなぜ月が離れていってしまうのかを見てみたいと思います。

回転する物体については角運動量を用いて考えます。
[角運動量]=[速度]×[回転する物体の半径]×[その物体の重さ]で定義されます。
同じスピードで同じ質量のものを回したとき、その長さが長いほど使用するエネルギーは高いことになります。例えば数人が手をつないで横並びに並んだときに、片方を中心に回転してもらうと遠くにいる人ほど走る距離は長くなってしまいます。これはよりたくさんのエネルギー、つまり角運動量を必要としたわけです。
このような感じで速度、半径、重さの3拍子で角運動量が定まります。

また角運動量の保存法則が宇宙空間では適用されます。
これは外界からの力が加わらない限り、全体のエネルギーは保存されるということです。
例えば先ほど言った三拍子の内、速度が落ちた場合においても角運動量は同じなので半径か質量のどちらかあるいは両方が大きくなり帳尻を合わせるという風に考えるのです。

それでは地球と月を見ていきましょう。
地球と月の角運動量は合計して考えることができます、これは月が地球を中心に公転しているからです。角運動量を合計するということは地球の自転と月の公転で相互作用を起こし、両方でひとつの角運動量を保存するということです。
つまり両者の区別をつけないというわけですね。


ここで3拍子を再び考えてみましょう、速度・半径・重さでした。
このとき変化するのが速度です。
カギを握っているのは地球の7割を占める海洋です。
まず月は引力によって地球の海洋を持ち上げています。実はこれが潮の満ち引き現象の正体です。なんともスケールの大きな話ですね。
満潮が起きているとき、地球の反対側でも満潮が起きています。こちらは月に引っ張られた海洋には持っていかれまいとする逆向きの力が働きます。この力が最大になるのが、月の引力が最も弱くなる反対側というわけです。

月が海洋を引っ張っている間にも地球は自転しています。ここで海洋ごと一緒に動くのですが二つの力が発生します。
一つ目は地球と月との間で起こる海洋の引っ張り合いです。地球の自転は月の公転よりも早いため、月の力は地球の自転を押しとどめるかのように働きます。
二つ目は地球と海洋の間で起こる摩擦力です。地球と海の接する面はでこぼこしているので動こうとする方向とは逆向きの力が発生します。
これらが合わさって地球の公転の速度を抑えているのです。

角運動量は保存されるのでした、もういちど確認してみましょう。
[角運動量]=[速度]×[回転する物体の半径]×[その物体の重さ]
このとき[その物体の重さ]にあたるものは地球と月の質量ですがこれは変わりようがありませんので今回は考えないでおきます。
[速度]は先ほど説明した通りです、地球の公転のスピードが落ちてしまいました。
(※このとき月の公転は同じスピードです。)
残ったのは[回転する物体の半径]です。このうち変化するのは地球か月の大きさか、地球と月の間の距離ですが、地球や月は大きくなれませんので地球と月の間の距離がのびます。
この地球—月間の距離をのばすことで地球の公転速度の不足分の帳尻を合わせたわけです。
このとき計算上およそ3㎝という数値が出てきます。

地球と月による波の引き合いはこれからも続いていくので、これからも地球の自転は遅くなり、そして月は離れていってしまうのです。
それでは月は見えなくなる日が来てしまうのか……。
実は止まる時が来ます。
それは地球の自転と月の公転が同じ速度になったとき。
この条件であれば海洋の引っ張り合いは起こりません。故に地球の自転もこれ以上は遅くならないというわけです。これで万事解決。
……いや待ってください。こうなると、ひと月の長さが50日ほどになってしまうそうです。しかも満潮干潮も一日周期ではすまない。まさに天変地異です。

でも安心してください。このようなことが起こるのは今から何十億年も先の話のようです。
その頃人類はどうしているのでしょうか……?想像もつきません。
ひょっとしたらもう地球には住んでいないかもしれませんね。

 

それでは今日はこの辺で失礼します。