シジミチョウ

シジミチョウ


野原の中でアリが集まっています。よく覗いてみるとぷっくりとした何かの幼虫がアリの興味を惹いているようです。
あの幼虫はもう死んでしまって、アリにたかられているのかと思うのですが思ったより元気そうです。それどころかわざとアリを呼び寄せているような……。
実はこれシジミチョウの幼虫です。
野原の中で小さな蝶を見かけることがあります、これがシジミチョウです。
体長は1~3㎝で、モンシロチョウよりも小さいです。
種類が多く羽の色のバリエーションも豊富で、私がよく見かけるのは灰色と黒色のシジミチョウでした。羽の形がシジミに似ているからこの名前があるようです。
興味深いのはこのシジミチョウは幼虫時代にアリと協力関係にあるということです。
今回はこのシジミチョウとアリとの蜜月な関係をご紹介します。

シジミチョウの幼虫には蜜腺という器官があります。ここから栄養たっぷりの甘い蜜を出します。これを求めてアリがやってきます。ここでアリは蜜をもらう代わりにシジミチョウのボディーガードを買って出るのです。
自然界には多くの肉食昆虫がいますが、多勢に無勢で大軍になってやってくるアリはこれらを退けてしまいす。
多くの幼虫が毒を体に蓄えますが、あえておいしくなってしまうという不思議な進化を遂げたのがシジミチョウの幼虫なのです。
興味深いのがシジミチョウの幼虫の多くが、アリに運ばれて巣の中で養育されるということです。餌もアリに食べさせてもらいます。まさに至れりつくせりですが、このときも対価として蜜を分泌し続けます。
中には大きくなるにつれてアリの幼虫を食べてしまう恐ろしい種類もいるようです。
大きくなると巣の入り口付近まで移動しそこで蛹となり、羽化し空へと飛び立つのです。
アリにおいしい蜜を与え、アリはシジミチョウの幼虫を保護する……、このようなWin-Winの関係を相利共生といいます。
一方でアリの幼虫を食べる種だと、アリの不利益の方が大きくなるのでこれは寄生と呼ばれています。片方にだけ利益が出る者は片利共生です。

ところでアリの巣にとってシジミチョウは異物です。
ましてや生きているとなると通常は巣の外へ追い出そうとします。ひょっとしたら外敵かもしれませんからそれに越したことはないのですが。
どうしてシジミチョウの幼虫はアリの巣の中に自然と暮しているのでしょうか。
実はここにも上手い生存戦略を組み立てていたのです。
そもそもアリはどのようにして味方と敵を区別しているのかと言いますと、触覚同士をくっつける動作をします。これによって体表の化学物質を識別し相手がだれかを認識しているのです。
もし仲間ではないと判明した場合は巣の中のアリが一斉に攻撃を仕掛け外へと追い出してしまいます。
シジミチョウは体の体表からアリの仲間だと錯覚させるような化学物質を出していることが分かりました。これによって仲間だと信じ込ませていたわけです。
ということは巣の外にいたときも仲間が動けない状態であったと錯覚していたというわけですね。

余談ですが、アリの社会はメスを中心に回っています、外で見かける働きアリもメスですし、巣の中で子育てしているのもメス、女王アリも当然メス……。オスは一体何をしているのか?実は生殖行為だけです。
オスが誕生するのは、新しい女王アリが誕生するタイミングです。
女王アリと、オスアリはバラバラに飛んでいき別の巣出身のパートナーを探します。
そしてパートナーが見つかると新天地を見出すために遠くへ飛んでいきます、このとき一匹の女王アリに対して数匹のオスがつきます。飛行中に性行為をして、女王アリの体に精子をため込みます。実は女王アリの性行為はこれっきり。これだけで10~20年間に何千万もの卵を産むのです。何ともすごい話ですね。
やがて巣に着くころにはオスは死んでしまいます。
この生活様式はハチでも共通しています。というのも進化学的にはハチとアリは同じ祖先から出てきているのです。

人間にとっては奇妙な生活様式でも当事者にとっては大真面目。
このようなとびきりの個性には人間が抱える問題を解決するヒントがまだまだ隠されていそうです。

 

それでは今日はこの辺で失礼します。