ヒアリ

ヒアリ


2017年5月26日、兵庫県尼崎市で中国から来たコンテナから特定外来生物であるヒアリが日本で初確認されました。
それから次々と確認され10月3日には20事例にもなりました。
特定外来生物特定外来生物被害防止法で認定された生物です。人や農作物、生態系に悪影響を与える恐れのある外国原産の生物の飼育や保管・運搬・輸入が規制されます。
ヒアリカミツキガメブルーギルヌートリアなどと共に2005年4月にこの法律が適用されるようになりました。

ヒアリの学名はSolenopsis invicta (ソレノプシス・インビクタ)。直訳で「負けなしのフシアリ」となります。
ソレノプシンという毒を体で合成し、おしりにある針で毒を注入します。刺されると火傷のような痛みが走ることからヒアリ(英語でFire ant)と言われます。
強い毒性、攻撃性の高さ、繁殖力の高さから在来のアリを圧倒し一気に増えていく傾向があります。日本に入る前にもアメリカやオーストラリア、台湾であれよあれよという内に定着してしまいました。

これだけみると怖いアリだなと思うだけですが、ドーム状のアリ塚を作ってみたり、洪水が起こると全員でイカダを作って浮いてみたりと生物としては非常に面白い存在です。今回はヒアリについて知られざる一面を見てみましょう。

原産地では弱いアリ……!?
ヒアリの故郷はブラジル、アルゼンチン、パラグアイなどの南米です。主にパラナ河が生息地だと言われています。
しかしパラナ河は雨期になると氾濫が起こりやすくアリの住みやすい環境とはお世辞にも言えません。なぜ、ヒアリはこのような場所に住むことになったのでしょうか。
実はこの地域はアクの強いアリがたくさんいるのです。
キノコを栽培することから農業をするアリと呼ばれるハキリアリ、
アリの中でも最強の毒を持つとされるサシハリアリ、
世界最大(3㎝~4㎝)のアリであるディノポネラ、
巣を作らず隊列を組んで移動し道中に居れば大型動物も食べてしまうグンタイアリなど錚々たるメンバーです。
南米はいずれ別記事を挙げたいくらい魅力的なアリ達の宝庫なのです。
その中で見るとヒアリは弱い存在であり、どんどんと追いやられて河まで移動したというわけです。

イカダを作るヒアリ
今年の9月にアメリカのテキサス州を襲ったハリケーンの影響で洪水が起きました。そこでヒアリのかたまりが水面を流れている姿が確認されました。水が増えるとヒアリは巣から出て全員で身体を寄せ合いイカダを作る習性があります。
これは故郷の河の氾濫から身に着けた習性なのです。

敵なしの状況では女王アリが増える
ヒアリの女王アリは1日に1000個以上の卵を産み付けるそうです。通常、女王アリは1つの巣につき1匹です。敵が多い南米では女王を1匹にして統制を優先していると言われています。
しかし、敵がいないところでは女王が複数いる場合があるのです。
こうしてただでさえ強い繁殖力がさらに強化されてしまいます。
アメリカではヒアリ対策に年間約5000億円の損失が出ているとさえ言われています。

沈黙の春』でのヒアリ
1962年に刊行された『沈黙の春』という本をご存知でしょうか?
米国の生物学者レーチェル・H.カーソンが当時の有機塩素系農薬の大量空中散布による野鳥や魚介類への影響や、生物濃縮の危険性を警告しました。
この本が環境問題への関心を高め農薬の規制へとつながったと言われています。
その中の「空からの一斉爆撃」という話の中でヒアリが登場します。
農薬を撒くためにヒアリをことさらに悪者にして、危険性の高い農薬散布を正当化する国と企業に対する意見が述べられています。
中には個人的に対処すれば済む程度の昆虫であるとされていますが、日本で見かけた場合は各都道府県の環境部局に連絡するのがよさそうです。
というのもヒアリは攻撃性が強いため、下手に刺激をすると群れで襲い掛かって来るため思った以上の被害が出ることがあります。
またヒアリに似た在来種もいますのでその見極めのためにも専門家を読んだ方が良さそうですね。

以上ヒアリのお話でした。このまま定着化してしまうのか気になるところです。
グローバル化が進み便利な世の中になると同時に、このような問題が起きている。少なくとも知っておくべきことなのだと思います。

 

参考文献
村上貴弘(2017). ヒアリの生態 昆虫と自然,vol.52,No.11,27-29
レーチェル・H.カーソン『沈黙の春』(新潮社)