アシナシトカゲ
アシナシトカゲ
茂みをゆっくりと進んでいく長い姿、舌をチロチロと出しながら目をギョロリと動かします。そして上空から鳥の鳴き声が聞こえると身を縮こませ隠れます、しばらくすると隙間から這い出てまばたきをひとつ……。
よく見ると尻尾の先がまっすぐ切られたような断面が見えます。尻尾を敵が襲われたときに切り離したのかもしれません……。
さて上記の文章で一体何を想像されたでしょうか。
ヘビと思った方は残念、実は上記の文章にはヘビにはできないことがいくつも示されています。
一つずつ確認してみましょう。
まず、ヘビはまばたきをしません。
寝ているときでさえかっと見開いたような目をしています。
しかし実はヘビは透明のまぶたを常に閉じていると言った方が正しいのです。
と言いますのも、脱皮した皮を拾って頭の方を観察すると目の位置にも皮が残っていることが分かります。進化の過程でまぶたがくっついてしまったのです、これは地中での生活が長かったからと言われています。例えば地中で暮らすモグラの仲間には目が皮膚の下に埋まってしまっているものもいます。
ヘビに関して言えば地上に再び進出した際、まぶたの構造はそのまま透明化したと考えられています。
次にヘビは耳がありません。ヘビとトカゲの横顔を写真などで見比べると、トカゲには目の後ろの方に穴が開いているのを確認できます。これは人間の耳にそうとうするもので中にはちゃんと鼓膜が存在します。
一方でヘビにはそれがありません。ヘビは耳ではなく体全体で感じる振動や赤外線センサーの役目を果たすピット器官によって他の動物の動きを察知しているようです。
つまり空から声がしても構造上ヘビは感知が難しいのです、これも地中生活の長かった所以でしょうか?
またインドでは路上にヘビ使いと呼ばれる人が、笛を吹いてコブラがそれにあわせて踊る光景が見られますがおそらく音ではなく体や笛の動きに連動しているのだと考えられます。
さらにヘビは尻尾を切り離すこと(自切)はしません。尻尾を切ることができるのはトカゲの仲間です。
「トカゲの尻尾切り」という有名な言葉があるように、トカゲは尻尾を切るものと思ってしまいそうですがトカゲ類すべてがこの自切を行うわけではないそうです。
この一見するとヘビの生き物たちはアシナシトカゲやヘビトカゲと呼ばれています。
(でも、実際はアシナシトカゲには脚があるものも分類されています、ややこしいですね。)
トカゲとしての特徴(まばたき、耳、尻尾切り)を持っており、さらに骨格を見ると脚があった痕跡があり、一度あった脚がどんどん短くなって最後にはなくなってしまったことが分かります。
このように別種の動物が同じような見た目や能力を獲得することを収斂進化と呼びます。
ヘビとアシナシトカゲの関係の他にも、モグラとオケラの手の形が土を掘るのに最適な形であったのか、ほぼ同じ形状であったりします、最も驚いたのはオーストラリアの有袋類(カンガルーのようにお腹に子育て用の袋がある生き物)には、よく似た生物がまるで最初から遂になるかのように確認されているのです。例えばオオカミとフクロオオカミ、ネコとフクロネコ、アリクイとフクロアリクイ……など。
このような例を見ると生き物は好き勝手に進化しているようで、何か一貫性を持っているのではないかと想像を膨らましてしまいます。
進化とは不思議なもので一定の方向を持ちません、進化と言えば常に進歩・発展しているようですが実に相対的なものであることが分かります。
きっとアシナシトカゲにとっては入り組んだ地形で生きていくために最適な進化であったに違いありません。
最善を目指したつもりが傍から見ると退化のように見えてしまうこともあるようです、しかし本人が満足であればそれが一番なのかもしれませんね。
それでは今日はこの辺で失礼します。