ABO式血液型

人間の血液型でとくに有名なのはABO式血液型と言われるタイプです。

A型、B型、AB型、O型の4種類からなる。(もっと詳しく言えばAA、AO、BB、BO、OO、ABの6種類が存在し、Oの特性よりもAやBが優先され現れません。こういう遺伝情報を劣性遺伝子といいます。)

最近でも血液型による性格診断や相性占いなどでこの分類を目にする方も多いのではないでしょうか。この血液型と性格に関しては科学的には首をかしげざるを得ないのですが、その話は別の機会にしておきたいと思います。

ではこのABO血液型はいったい何を意味しているのでしょう。実はこれは赤血球の表面にくっついている糖鎖の種類を意味しているのです。もともと赤血球の表面にはフコースという糖があり、ここにN-アセチルガラクトサミンがつくとA型、ガラクトースがつくとB型、何もつかないでフコースのままだとO型、2種類ともつくとAB型になるわけです(ただし1つのフコースには1つの糖しかつきません。A型とB型の糖鎖が混在している状態になります)。中にはフコース自体ないというポンペイ型もあります。

実は血液型自体はたくさん種類があるのですが、このABO血液型が一般的に有名になったのには理由があります。それは命に係わるほど重要な分類だからなのです。

A型の血液にB型の血液を加えるとすぐに固まってしまいます(凝集反応)。同じようにA型の血液にAB型の血液を加えるとこれもすぐに固まってしまいます。実はA型の人にB型の血液が入ると免疫系が危険と判断し固めてしまうのです。逆もまたしかりでB型の人はA型の血液が入ると固まってしまいます。こんなものを輸血と称して入れられたら大変ですね。体に最初からない型の血液は毒扱いというわけです。一覧表にまとめてみました。

 

A型を輸血

B型を輸血

AB型を輸血

O型を輸血

A型の人

固まらない

固まる

固まる

固まらない

B型の人

固まる

固まらない

固まる

固まらない

AB型の人

固まらない

固まらない

固まらない

固まらない

O型の人

固まる

固まる

固まる

固まらない

 

一番有利なのはAB型でA型、B型双方の特徴を最初から持っているため、どの血液を加えても固まりません(逆に言えばAB型の血液はAB型の人にしか輸血できないわけです)。一方で厄介なのはO型でA型、B型どちらも毒とみなしてしまうのでO型以外の血液はすべて固まってしまいます。

逆に考えるとO型の血液は余計なものがついていないのでO型の人以外のA型、B型、AB型の人たちに輸血しても問題が起こらない最高の血液とも言えます。医療現場でも不足するのはO型です

さてここで素朴な疑問をひとつ、O型の人はA型、B型、AB型どの血液がきても、毒扱いになり固まってしまうと説明しました。なぜO型の血液をA型、B型、AB型の人に安心して輸血できるか不思議ではありませんか?勝手にO型の血液が輸血先の血液を毒と判断して固まらないのはなぜでしょうか?

実は固まらせる原因は赤血球ではなく血清に含まれる凝集素が関与しています。血液を遠心すると黄色っぽい部分(血清:ここに血液を固める成分の凝集素が含まれる)と赤い部分(血餅:赤血球、白血球、血小板など)に分かれます。

輸血に用いられる血液は、赤血球のみ、血小板のみ、血漿のみと分けてから用いられることが一般的です。つまり赤血球のみ取り出せるのであれば、O型の血液を最高の血液として何の心配もなく使えるというわけなのです(逆にO型の血清はA型、B型、AB型の人の血液を固めてしまう最強の毒に違いないわけですね……)。

この分類が判明する以前は輸血を試みては入れた先から血液が固まり死に至るという、冗談でもない話が実際に起こっていたそうです。この分類を最初に作ったのはカール・ラントシュタイナーというオーストリアの医者でした。1900年、彼は研究所の人たちの血液22人分を集め、組み合わせを検討しそれぞれA型、B型、C型(現在のO型)と分類しました。この時AB型の人がいなかったため、AB型は後に新しい血液型として報告されました。彼はこの業績で1930年にノーベル賞生理学・医学賞をもらっています。これ以降輸血による事故は急激に減ったというからまさに命を救う発見であったわけですね。

 

先ほど医療現場でO型の血液が不足しているという話をしましたが、2018年に興味深い報告がありました。カナダのブリティッシュ・コロンビア大学のスティーブン・ウィザーズ博士らが腸内細菌の酵素から、A型、B型、AB型の血液からO型の血液に変換するものを特定したと言います。

実はこのような話はこれが初めてではありません、以前にもO型の血液に変える酵素は見つかっていたのですが問題がありました、いくら変えることができると分かっていても時間がかかりすぎたり費用がかかりすぎて実用性に乏しいと言われていたのです。

今回の酵素は従来の酵素よりも変換が速いと言われています。とはいえ報告が上がったばかり、実用化までこぎつけるかはまだ分かりません。もし実用化されれば医療現場における革命と言えるかもしれません。