だんだん植物のようになっていくウミウシ_盗葉緑体現象

葉緑体現象

 

生物学では何かを食べなければ生きていけない生物を従属栄養生物といいます。食物連鎖の頂点に立つライオンやワシでさえ食べるものが無ければ生きてはいけません。そういう意味では皆食べ物に従属、つまり依存しなくては生きていけないのです。

 

何故食べ物を食べるのかと言えば、体を構成するために栄養が必要だからです。生物の体の大半は炭素、水、酸素で構成されていますが体で使うには、まず使える形になっていなくてはいけません。人間は糖、アミノ酸脂肪酸を主に使って生活しています。基本的に外部から入って来るでんぷん、タンパク質、脂質を分解して使える形に加工します。

だからと言って最も基本的な炭の塊や窒素、水を口にしても人間は栄養が足りなくなって倒れてしまいます。これは人間がそもそも糖分や一部のアミノ酸を作れないからです。

さらに人間の身体で使用可能な糖やアミノ酸をとっていても、どうしても作れないものをビタミンやミネラルと呼びます。ビタミンは有機(基本的に炭素、酸素、水で構成される栄養素)、ミネラルは金属を意味します。どちらも外からとるより他はなく、もし不足すると欠乏症になり身体に様々な不調が現れてしまいます。

それでは利用可能なエネルギーはどこから来るのかと言いますと、植物に行き着きます。

植物は太陽光と水と二酸化炭素から糖やビタミンなど使いやすい形に加工することができるのです。自分で栄養を作れるので独立栄養生物と言われています。肉食動物も草を食んで栄養を蓄えた草食動物を狙い生計を賄っています。植物が地球上から消えてしまうと困るのは、酸素の問題だけではないのですね。

 

以上のような問題から毎日食事について考えざるを得ない世界を生きる羽目になった動物なのですが、動物界には変わった解決策もあります。それが今回紹介する盗葉緑体現象と呼ばれるものです。

葉緑体とは植物を緑たらしめる植物細胞の構成要素で、ここがまさに光合成の現場です。植物は自身で栄養を作れるので地面に根を張って食事をすませます、ところが動物はそうはいかない。そこで植物の栄養生産工場を奪って自分のものにしてしまおうと考えた生物がいました。

 

Elysia chloroticaは生まれたての状態では真っ白なウミウシなのですが藻類を食べることで緑色になっていきます。まず植物を普通に食べるのですが、その際に葉緑体だけを特別な膜に包んで消化しないように体内に入れて再利用するのです。葉緑体さえあれば食事に悩む必要はもうありません。それに体の色も植物そっくりになれるので、背景に隠れることができ外敵からも襲われにくくなります。しかし外から強引にとった葉緑体です、メンテナンスもできないままではすぐにダメになってしまう気もするのですが、体内に入った葉緑体はある報告では1年以上も持つと言われています。

実はこのウミウシの核には葉緑体を長持ちさせる遺伝子が入っていたのです、それにしても葉緑体を持っていないはずの生物がなぜこのような遺伝情報を持っていたのでしょうか?現在はウイルスに感染するなどして藻類の遺伝情報が偶然伝わったと言われています。

 

ちなみに葉緑体はもともと藻類だったものが別の細胞に取り込まれ共生するようになったと言う共生説が一般的になっています。

さらに動物細胞に存在し酸素を使ってエネルギーを生み出しているミトコンドリアも好気性細菌が嫌気性細菌に取り込まれ共生したと考えられています。面白いことにこれらの構造物は独自に遺伝子を持っていて半自立的に分裂・増殖が可能なのです(通常は細胞の核に全ての遺伝情報が詰まっているはず……)。どうして半自立かというと長い期間一緒に居たせいか、葉緑体ミトコンドリアを作るための遺伝子が自前ではそろわず、細胞の核に依存しているケースも多々あるからなのです。

 

Elysia chlorotica葉緑体を利用している姿を見ると遠い我々の先祖、と言ってもその頃は似ても似つかぬ細胞だった頃に食べた細菌の名残があると考えて見ると自分の体ながら不思議な感じがしてしまいます。

 

人間も野菜をずっと食べているうちに肌が緑くなって、食事が要らなくなる未来もありうるのでしょうか?これで地球上の食糧問題も解決といった形でしょうか。でもそうなると、栄養は十分あるあるから空腹感や食べた後の満足感はなくなってしまうかもしれない。それは果たして幸せなのか……。

 

想像がとまりません。

地球にはまだまだふしぎがいっぱいです。

 

 

お付き合いいただきありがとうございました。