島を食べる虫?_ナナツバコツブムシ

島を食べる虫?_ナナツバコツブムシ

 

広島県東広島市安芸津町赤碕の沖にある小さな島,ホボロ島に奇妙な現象が起きています。何と島があれよ、あれよという間に小さくなっていっているというのです。もちろん雨風に曝されているのですから、多少の変化はあるはずですが、このホボロ島に関しては目を見張るほどのスピードで風化が進んでいる状態です。

昭和3年と31年に発行された2万5千の分地形図,三津図幅では,この島の高さは21.9mと標記され,長径が120m+だったはずなのが,2007年の時点で高潮位時の海面上に見られる部分は,高さ6m・幅が83mに足りない搭状の岩石が島の西端に一つあるにすぎない状況になってしまいました。

周りの島はそれほど変化がないにも関わらず、なぜかこの島だけが凄い勢いで小さくなっていくのはどうしたことなのでしょうか。2007年、沖村雄二広島大学名誉教授らの研究によって、実は犯人は小さなダンゴムシの仲間ナナツバコツブムシという生き物だったということが明らかになりました。

 

ではこのナナツバコツブムシとは何者なのでしょうか。大きさは10㎜ほどで、見た目はダンゴムシによく似ていて岩に擬態するためか白、茶、黒といった色が存在し、丸まることができます。海中のプランクトンや魚介類の死骸など有機物を餌にしていると考えられていて、噂のように島を食べて生活しているわけではなさそうです。彼らが島を掘る理由は巣穴を作るためです。脆くなった凝灰岩を下あごと堅い歯を用いて砕いてまっすぐ掘り進めて巣穴を作る習性があるのです。脆くなったと言ってもやはり岩石、自分がやっと入れるほどの小さな穴なので外敵も手が届きません。

 

ホボロ島では風化作用によって岩が軟化しており、そこにナナツバコツブムシが大量発生して思い思いに巣穴を掘っていきます。無数に彫られた穴は波で削られ穴同士がつながって大きな穴となり、そこに巻貝やカニが棲息します。こうして穴だらけになった島は、表面からどんどんと強度を失っていき浸食作用が加速して、上位の岩石の崩落を招き、島自体の風化に歯止めが利かなくなっていったようなのです。

 

ホボロ島の名前の由来はその地方で使用されていた竹籠(ホボロ)をひっくり返した姿に似ていたことから。今では削れてしまいその面影は有りませんが当時は周囲250mほどの規模の島だったそうです。

最高の土地が見つかったとせっせと数を増やし続けるナナツバコツブムシですが、予測ではこの調子で島の破壊が続くと100年ほどで無くなってしまうそう。「おごれるものは久しからず」ではないでしょうが、せっかくの住処自体が消えてしまうのも時間の問題のようです。

 

 

さて振り返ってみれば地球という大きな島に住んでいる我々も彼らを馬鹿にできないのかもしれません。問題が起きていることや未来を予測できるのが人間の特徴です。温暖化や異常気象、資源の現象というシグナルを受けながらこの地球という島を無くさぬようどうするか。このままずるずると島ごと消えるか生き残るか……。ナナツバコツブムシの小さな行為が大きな結果を招いたように、個人個人ができることをやるだけでも思った以上に大きな成果が望めるのではないでしょうか。ナナツバコツブムシは小さな生き物ですが、そこから学び取れることもたくさんあるのではないでしょうか。

 

 

参考サイト 一覧

 

日本の島へ行こう ホボロ島

http://imagic.qee.jp/sima3/hirosima/hoborojima.html

 

日本地質学会 地質フォト:瀬戸内海中部、芸予諸島ホボロ島の生物浸食作用

http://www.geosociety.jp/faq/content0012.html