庭の隅からお送りいたします。①テントウムシの色についての考察

庭の隅からお送りいたします。

1.テントウムシの色についての考察

 

庭に咲いたハルジオンの葉に赤くツヤのある姿が目に留まった。近づいてみるとやはりテントウムシだ。テントウムシはゆっくりと動くので静かに手を歩いているそばに寄せるとそのまま指を登って来るのでゆっくりと観察することができる。

丸いボディに赤と黒コントラスト、ツヤのある体。漆塗りの器のような意匠をこらしたデザインに見えてくる。

テントウムシは漢字で書くと天道虫。手に這わせると上へ上へと歩いて行き、頂上まで来ると飛んで行ってしまう姿がまるで天へと昇っていくように思えたのだろう。

虫の中でも人気者でそのかわいい姿からか様々なグッズが出ており、ブローチにまでなったりする。同じような形のマルカメムシとはその人気には雲泥の差がある。

さてこのテントウムシ、前々から思っていたのだがどうしてこんなに目立つ色をしているのだろうか。春の野原に目を凝らすと緑一面の世界に赤がはっきりと映えて、最も見付けやすい虫のような気がする。まるで見つけてくださいと言わんばかりの色なのだ。隠れる気がまるでない。そのくせ動きも遅くもし敵に見つかろうものなら捕まってしまうのも時間の問題だろう。

一説にはこの赤に黒の配色は警戒色と言われている。警戒色を使っている虫で有名なのは蜂の仲間で、黄色と黒の縞模様という目立つ姿は敢えて目立つことで危険というイメージを印象付ける役割を果たしているらしい。つまり鳥が襲うと、針や顎で応戦し、鳥にあいつは食えない奴だと覚えさせ、次回から見ただけで敬遠させることができるという仮説だ。

警戒色の代表格は毒持ちだったり、頑丈な顎を持っていたりとにかく厄介者の性質を持っている。中にはそんな強い存在の威を借りて、ちゃっかり配色だけまねる横着者もいるにはいるのだが。

さてではテントウムシには何があるだろうか、テントウムシを触る時に気をつけたいのは刺激しすぎると横腹から黄色い液を出してくること。そしてこの液が結構臭い。とは言えカメムシほどではないがあまり気持ちのいいものではない。中にはテントウムシを実際に口に入れ味を確かめたという人がいたが苦みがあり、15分ほど口に残るような味であったらしい。これで臭いと不味さを強調するための警戒色としているのだが、私にはどうも納得できない。なぜなら同じように臭いと不味さをもつカメムシの種類の多くは地味な色をして自然に擬態している。特徴的なアカスジカメムシですら木の幹に沿って並べば立派に隠れることができる。それにテントウムシは日本に180種確認されているが、赤い大きな丸に黒い斑点のものだけではなく、黒を基調としたものもいれば、赤に白い斑点のもの、反転の数や大きさが種類によって異なることも不思議だ。こんなに幅があると警戒色を覚える側も大変だし、もし覚えてもらえなければ悪目立ちということになる。第一赤は熟れた木の実や果実の色で鳥にとっては美味しそうな色なのだ。リスクが高い、なぜわざわざ赤なのか?

ひょっとしたら警戒色とは別の意味合いがあるのではないだろうか。というのも、テントウムシは赤くて丸いと熟れたトマトのようにおいしそうな色をしている。そこに黒い斑点がいくつかある。ここで考えて見て欲しいのだが、赤いトマトに大きめの穴がぼこぼこと開いているものを食べたいだろうか。おそらく虫食いやカビによって変色した旬の過ぎた腐ったトマトのように見えないだろうか?そう考えてテントウムシの図鑑を眺めて見ると、ほとんどの種類が腐った木の実や果実を連想させる配色に見えるのである。ウンモンテントウムシなんかは完全に腐って見える。他にもテントウムシの仲間にはトホシテントウやツシママダラテントウムシなどの毛の生えた種類もおりこれなどはカビを連想させる。

警戒色以前にテントウムシは腐った木の実、果実に擬態しているのではというのが今回の帰結である。先に臭いがあって色がついてきたのか、色があって臭いがついたのか、それとも両方同時期にその性質を手にしたのかは不明だが、少なくとも警戒色だけで安心してはおられずあの色に落ち着いたのではないか。テントウムシ自体は「腐ってるから食べられないよ」という変装の安心感の中でゆったりと移動しているとも考えられるのである。

ここまで読んで下さりありがとうございました。

以上庭からお送りいたしました。