新聞をどのようにして読むべきかを考える_前篇

新聞をどのようにして読むべきかを考える_前篇

 

僕の尊敬する知識人に池上彰氏と佐藤優氏が居る。

池上彰氏は「わかりやすい」情報のスペシャリストで、初心者が見るとまごついてしまうような難解な出来事や現象を非常に整理して教えてくれる。無駄な部分を割き、難解な用語を平易な表現に改めてくれるので驚くほど読みやすい。本人曰く「子どもにもわかるように」という目的意識がはっきりしていているため、ニュースや新聞を読むのと並行して池上彰の本に目を通すことで新しい情報を素早く理解するのに非常に助かっている。池上彰氏は自分の意見と言うものを言うことが少ない。事実を分かりやすく伝えると「さあ皆さんなら、この問題どう考えますか?」という問題提起で終わることが多いイメージがある。

 

一方の佐藤優氏は元々外務省の官僚。それも情報分析を専門にしていた人で今でも月に2冊、90の連載を抱えているという常人離れした仕事量に加え、これまた桁外れの情報処理能力を持っているようで月平均300冊の書物に目を通しているとのこと。佐藤優の本はあらゆるバックボーンの知識を応用したものの見方を展開する人で、普段何気なく見過ごすような情報から驚くほど重要な意味を読み解くので、発想や思考が狭くならないように考えて読むのに適しているイメージがある。佐藤優氏は自分の考えを主張する人で、これを批判的に読むとかなり知的作業になる。また学習した内容を佐藤優流に入門書として書いている場合もあるのでこれも気になるものには目を通しているが、出版ペースが速く読む量が出る量に対して一向に追いつく気がしない。

 

そんな両者が情報収集のノウハウをまとめたのが東洋経済新報社から出版された『僕らが毎日やっている最強の読み方』。一章が新聞、二章雑誌、三章インターネット、四章書籍、果ては五章教科書・学習参考書に関してのそれぞれの意見や実際の使い方がまとめられている。この本が凄いのは両氏が見ている情報源の一覧表がついていること、正直この本で初めて知った情報源の存在も多かった。例えば新聞では不足気味な国際情勢を知ることができる『ニューズウィーク日本版』や『ウォールストリートジャーナル日本版』、無料で簡易ながら今日一日の情報をざっと見渡せる『NHK NEWS WEB』、ネット上の有料辞典サイト『ジャパンナレッジ』などはまず知らなかったし、他にも紹介されていた阿刀田高の『旧約聖書を知っていますか』などの古典入門シリーズは愛読書になった。

 

唯一問題点はこの二人が凄すぎて参考にならないこともあるという点だろうか…。鍛えれば何とかなるのだろうか?

 

そんな中で今回は特に興味深かった2章の新聞の使い方、そして5章の教科書・学習参考書に関する情報をもとに素人でもできる情報収集の手段を考える。

 

まず考えておきたいのが、全国紙だけでも『朝日新聞』、『讀賣新聞』、『日本経済新聞』などなど、数ある中でどの新聞に目を通すかなのだが彼等にはそんな問題はそもそも生じない。何故ならすべてに目を通すからだ。

池上氏が毎日11冊(余談だが最近か刊行されたNHK出版の『おとなの教養 2 私たちはいま、どこにいるのか?』では地方紙含め14冊になっていた……)。そして佐藤氏が10冊と常軌を逸した数字が書かれている。

新聞は文字数で換算すると大体新書2冊分になるという、もし11紙もまともに読んでいると一日に22冊の新書に目を通したことになる。これは現実的に不可能な数値だ。

 

それでは二人の新聞の読み方を簡単にまとめておこう。まず池上氏、彼が一日に新聞を読むのに使う時間はおよそ1時間20分程度。朝は大体20分、記事を読むのではなく見出しを中心に目を通す。各新聞の紙面の比較をやっているのに近いとのこと。夜には朝気になった記事を中心にして全体に目を通す、これが1時間。それでここが時間の使い方の上手なところで、池上氏はさらにここで重要だと判断した記事は切り抜いてジャンルごとのファイルに入れいつでも読めるような状態にしておき、移動時間や原稿を制作する時に精読するそう。

佐藤氏はタイムウォッチで時間を計測しながら2時間で収まるように目を通す。また半数以上が電子版で、気になった記事はネット上のクラウドに保存しているそう。外交官時代は5~6時間はかけて読んでいたとのこと。

 

10~11紙を1時間20分~2時間で読了するにはまともにすべての文字を追っていては埒が明かない。では両氏の新聞の活用法を見ていこう。

池上「読むといっても、一字一句すべてを通読する必要はありません。新聞はあくまでも「飛ばし読み」が基本」、佐藤「見出しを見て、読むかどうかを迷ったら読まない」。

さらに池上は「見出しだけで済ませる記事」「リードまで読む記事」「最後の本文まで読む記事」の3段階に区分しているそう。

電子版は見出しのみを俯瞰して見れるため速く読める、紙の場合は切り抜き、保管がしやすいという意見。

保管に関しては気になる記事のあるページはまるごとちぎってしまい、分類などはせず紙袋に寝かせてしまう。あとで重要と判断した記事は「政治」「経済」「国際情勢」などに分類しクリアファイルへ。記事がたまってきたら細分化ジャンルを細分化していく。

保管に関しては気になる記事のあるページはまるごとちぎってしまい、分類などはせず段ボールに寝かせてしまう。あとで重要と判断した記事はスキャナーでデータ化。分類などはせずエバーノートに保存し紙面は廃棄。エバーノートは検索機能が充実しているためジャンル分けが不要とのこと。

整理にかける時間をどれだけ省けるかがカギのようだ。

「続けているうちにコツがつかめ、必要な情報を得るスピードも上がっていきます。関心分野なんて、新聞をパッと開いた瞬間、キーワードが目に飛び込んでくる」らしい。未だにパッとしないのは興味が持ててないからなのか?

もちろん新聞10紙をいきなり始めるのは無理ということは書き手も承知のようで、「最低でも2紙」からを推奨している。相性のいい新聞と論調の違う新聞を併読して比較検討しながら読むのが効率的であるとして、例えば保守系とリベラル系とか、地方紙と全国紙とかの組合せをあげている。

 

僕は図書館で息巻いて全国紙5紙を読もうとして挫折した経験がある。いつまでたっても終わらないのだ、終わったころにはへとへとで勉強に手がつかなくなってしまった、何事も無理は禁物。佐藤氏も「1日5分でもいいから継続して新聞に目を通す習慣を」と言っているのでそれに従う。

 

結局現在は毎日見るのは地方紙の『山陽新聞』、デジタル版の『朝日新聞』(980円の簡易版)に、NHK WEB NEWSにとどまっている。大体これだけでも1時間30分~2時間かかっている……。全国紙に目を通すのは時間的にも資金面でも難しそうだ……。

 

そんな中嬉しい情報が手に入った。最近佐藤氏が刊行したSB新書で『調べる技術 書く技術』の中で月刊雑誌『新聞ダイジェスト』に言及しており、早速購入して部分的に見ているのだがとても良い感触。こういうのはもっと早く知りたかった……。ざっくり言うと「ひと月分の全国紙(『朝日』『讀賣』『毎日』『産経』『日経』)+『東京新聞』による6紙の新聞記事の中から重要なものだけを集めてまとめたもの」といった感じ。それに連載企画として6大新聞の社説の読み比べがあり各紙の特徴を比較してみるのも面白い。これさえ見ればひと月分の情報は大体手に入れることができる。ひとつ残念なのは内容が2カ月前のものになってしまうこと。2019年6月号では4月分の新聞記事の総まとめとなっている。価格は税込み972円で全国紙をすべて買いそろえるより断然お得。ページ数は170ほど。ひと月で読むにはちょうど良さそう。

 

そして新聞を読むコツとしてもうひとつ基礎知識の有無がこの両氏と素人の隔絶した差を生み出している原因を生んでいると僕は思っている。それに関して書きたいのだが文長々と書いてしまったので次回へ。