新聞をどのようにして読むべきかを考える_後篇

新聞をどのようにして読むべきかを考える_後篇

 

前回の記事の続きです。前回はこちら……

新聞をどのようにして読むべきかを考える_前篇 - 知識のバラバラ

 

前回は池上彰氏、佐藤優氏の新聞の読み方を紹介し、その上で速く読む方法として文字を全部読むのではなく、見出しとリードから重要性を判断し読むものと読まないものを区別する。そして整理にはなるべく時間をかけない。ということを紹介した。

また効率的に知識を吸収するためには最低でも論調の異なる新聞を2紙読むのが良いということを書き、ものぐさな僕は『新聞ジャーナル』が手っ取り早いと紹介を加えた。

 

今回はもうひとつの秘訣を「第5章 僕らの教科書・学習参考書の使い方」から見ていく。

内容を少し抜き書きする。

池上「いくら書籍をたくさん読んでも、その分野の「基礎知識」がすっぽり抜け落ちていると、うまく知識が積み上がっていきません。」

佐藤「義務教育レベルの基礎知識に欠損があると、いくら新聞や雑誌、ネットニュースを見てもその内容を「理解する」ことができません。」

池上「しっかりした土台の上に積み重ねてこそ「情報」は「知識」となり、それを繰り返すことで「使える知識」「教養」になる。」

とした上で、教科書は次世代を担う若者が知っておかなければならない知識や思考法が詰め込まれたものであると言い、特に政治や経済のニュースは中学生の「公民」の教科書レベルをマスターしていれば十分理解できるのだそうだ。そういった教科書の中でも「公民」「歴史」「国語」「英語」が読んでおきたい科目として挙げられている。海外の新聞に目を通さなければ英語はいらないとして、歴史は高校教科書の「世界史A」「日本史A」がコンパクトに通史を押さえられるので読んでおきたいとしている。

 

おそらくこの二人は基礎的な知識が固まっているので、広いジャンルの情報をひっかかることなく理解できるのだと思う。これがスピードの秘訣だと僕は考えている。

 

例えば2019年5月23日の『朝日新聞』1面の記事を見てみよう。

 

廃炉、「特定技能」外国人就労見送り 東電「当面の間」

東京電力ホールディングス(HD)は22日、福島第一原発廃炉作業に、「特定技能」の在留資格を持つ外国人労働者を当面受け入れないと発表した。人手不足を背景にいったんは受け入れを決めたが、21日に厚生労働省から「極めて慎重な検討」(根本匠厚労相)を求める通達を受け、方針を転換した形だ。

 

ここまでが見出しとリードにあたる。1面に出たわけだから重要なのは間違いない。しかしこの記事は理解しようとすると意外に難しい。そもそも「特定技能」とは何だろうか?普通の在留資格とは何が違うのだろうか?なぜ廃炉作業だけがクローズアップされているのだろうか?厚生労働省とはどういう組織なのか?

そんな疑問を抱えたままでは「記事とリードで判断する」場合、分からないと読まないですましてしまいたくなる。

 

それで政治経済の教科書は何と書いてあるのか?

まず『詳説 政治・経済研究』(2010)には、

「日本は、外国人の「移住は認めない」「単純労働者の受け入れは認めない」の原則の下、「移住労働者」を否定してきた。」とし「多くの移住労働者予備軍が観光ビザで入国し、入管法上「不法就労者」となり、摘発をおそれて過酷な労働条件下で働いている。」現状があり、人権を無視しているといった日本への批判もあるということが書かれている。

 

また厚生労働省のHP、

「日本で就労する外国人のカテゴリー(総数 約146.0万人の内訳)」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/gaikokujin16/category_j.html

では、①就労目的で在留が認められた者(いわゆる専門的・技術的分野の在留資格。約27.7万人)、②身分に基づき在留する者(日系人、永住者、日本人の配偶者。約49.6万人)、③技能実習生(技術移転を通じた国際協力。約30.8万人)、④特定活動(EPAに基づく決定で認められた者。約3.6万人)、⑤資格外活動(留学生のアルバイト等。週に28時間以内。34.4万人)に区分されている。

 

次に2019年2月発行の『速攻の時事』によれば、

2019年4月から、改正出入国管理及び難民認定法等が施行。一定の専門性・技能を持つ外国人のための在留資格「特定技能1号」と熟練者向けの「特定技能2号」を新設。「1号」の在留期間は5年で家族は連れてこれない。「2号」は更新可能で、家族も連れてこれる。政府は5年で最大約34万人の新規受け入れを想定しているとある。受け入れ業種は「生産性の向上や国内人材確保のための取り組みを行ってもその分野の存続に外国人が必要な分野」として介護、建設、宿泊、農業、外食など14業種。

 

ちなみに厚生労働省は『山川 現代社会用語集』で「社会福祉をはじめ、社会保障や公衆衛生の確保・向上、雇用対策などを任務とする国の行政機関」とある。

 

情報を集めても分かりにくい……。

 

ざっくり言うと、

今まで日本は海外の人が自由にやって来て働くということに関して、政府はとても慎重だった。厚労省の分類では自由に職を選べるのは②「身分に基づき在留する者」に該当する人だけで、他は特定の職業にしかつけなかったり、時間制限が設けられていたりで自由度が低かった。それでも日本で働きたい外国人は多いし、日本から見ても少子高齢化などが原因で減少する労働力を確保したい、企業から見れば海外の安い労働力は魅力的という考えがあり外国人に日本で働いてもらおうという流れができていた。そこで政府はある程度選択の幅がある新しい枠を用意して海外の人に働きに来てもらおうと考える。これが「特定技能」。特定技能には「建設」や「介護」「食品」など14の分野があり、専門の試験を合格すれば認められる。

今までより選択の幅が広いし、2号を取得することで長期間の労働や家族と暮すことも可能になった。しかし外国人労働者をむやみに入れると日本人と仕事の奪い合いになってしまう。政府はそれをさけるため日本人の労働者を優先した上でそれでも人手不足の場合に限って適用するとしている。そして問題になったのが「建設」のカテゴリーに福島原発廃炉作業は入るのかどうかということだった。

 

こうした知識があるのとないのとでは理解にかかる時間に雲泥の差がある。知識を先に知っていた人は記事を見た時点で赤文字部分の理解になるのだが、何も知らないまま青文字の知識を調べないでいるとわかったような気で終わってしまう。

新聞を読むのが早い人はおそらくこういう基礎知識を蓄積しており、一々確認せずとも記事を見れば「わかる」という状態で臨んでいるものと思われる。ここである程度理解しておくと次にまた不法就労者や、特定技能の問題が出れば容易に理解ができる。知っていなくとも大体どこを調べれば欲しい情報が出てくるのかという経験値も理解能力に差を生んでいると思う。

とは言え全部の記事を細かく見ることは難しいので一面に載っている記事とどうしても気になる記事だけは調べるようにして、他は中学・高校程度の知識を身に着けることをやっておけば良いのではないだろうか。

 

以下本文、

 東電HDは22日、通達を踏まえた検討結果を厚労省に報告した。発表によると、日本語や日本の労働習慣に不慣れだったり、放射線の専門知識がなかったりする外国人労働者が現場で働けば労災事故や健康障害が発生する恐れがあり、「極めて慎重に検討する必要がある」と表明。安全管理体制の検討に相当の時間を要するとして、当面の間は就労させないことにしたという。

 ただ、福島市で会見した東電福島復興本社の担当者は「この先ずっと就労させないと言い切っているものではない。検討して改善したうえでの就労はありえる」と語り、将来の受け入れはありうるとの認識を示した。

 当面の受け入れ見送りについて、東電は協力企業にも従ってもらう方針で、23日に約50社が参加する協議会の場でも説明するという。

 特定技能は、外国人労働者の受け入れ拡大のため、今年4月から始まった新たな在留資格。建設業が受け入れ対象業種になったことで東電は3月、福島第一原発の現場に受け入れる方針を協力企業などに伝えた。

 だが、事故の影響で福島第一原発の構内にはなお放射線量の高い区域が残る。在留期間が最長5年の外国人労働者が帰国後も被曝(ひばく)線量などのチェックを受けられるのかと、問題視する声が上がっていた。

 外国人労働者を支援する「移住者と連帯する全国ネットワーク」代表理事の鳥井一平氏は「被曝労働による職業病はすぐに発症するわけではなく、何年も後になって発症することがある。厚労省の対応は当然だ」と話した。(石塚広志)

 

 

長々と書いてきたが、基礎知識を身に着けることが遠回りのようで実は近道だということが言えそうだ。

 

ここまで読んでいいただきありがとうございました。