心拍数1000回、世界最小の鳥 ハチドリ

心拍数1000回、世界最小の鳥 ハチドリ

小さな鳥と言えばメジロやスズメ、ウグイスなどが日本ではメジャーでしょうか。それでもメジロは全長12㎝ほど、スズメは14㎝、ウグイスはオス16㎝、メス14㎝ほどあります。

今回紹介するのは全長が親指ほどの4~6㎝しかない世界最小の鳥マメハチドリのお話です。

 

〇マメハチドリの特徴

マメハチドリの生息は南米大陸北米大陸にのみ確認されています。約340種が存在しており、住んでいる環境は様々で高山地帯から多雨林地帯と幅広く適応しています。大きさは親指ほどの4~6㎝、重量は2 g~20 gほどで、姿がメタリックな輝きを帯びた極彩色であることから飛ぶ宝石の名で呼ばれることもあります。主に花の蜜を吸って暮らしています。小さな羽をフル回転させ移動するのですがエネルギーの消費が激しくちょっと飛んだら、すぐ食事と言う非常にあわただしい生活をしているようです。少しでも効率よく花の蜜を採取できるようにハチドリの舌は先がふたつに割れています。これはハチドリだけの特徴ではなく同じく花の蜜を吸うメジロも同じ特徴を持っています。

 

〇マメハチドリはホバリングする

通常、鳥類は羽根を下に降ろす力で浮力を得て上昇し気流に乗ってしまうと後は羽根を極力動かさないようにして滑空をするような形で飛んでいます。飛行機と同じ仕組みのため、浮力を得るには前に進むしかなく常に移動をしていることになります。

ところがマメハチドリは真上に飛び上がり、花の蜜を吸う時には空中に留まって舌を伸ばします。つまりハチドリはヘリコプターのように前に進まなくても浮力を得られるような全く別の仕組みで飛んでいることになります。

通常の鳥だと羽を打ち下ろした場合にのみ浮力が生じ、羽根をもとの位置に戻すときには浮力は生じないはずなのですが、マメハチドリの場合には羽根の上下どちらとも浮力が生じているようなのです。ちなみにこの羽根の扱い方はハチやトンボなど昆虫に多く見られる飛び方です。また、通常の鳥が肩で羽を操るのに対し、マメハチドリは手首のスナップで羽を動かすため非常に素早い羽ばたきが可能になります。勝手は違うと思いますが人間がやってみても手首を動かさず肩を動かす場合と、手首のみを動かす場合では指の先のスピードが全く違います。しかし生み出すエネルギーの大きさは肩から動かしたほうが上なので、手首の力だけで飛ぶためには身体がよほど軽くないといけません。マメハチドリの飛翔術は小さいからこそできた飛び方なのです。

 

〇自動車並みの速度でも無事故

マメハチドリは急降下などの最速時には100 km/hを超えます。通常この速度を出す鳥は障害物のない上空を飛んでいるはずなのですが、マメハチドリは樹々に囲まれた森の中で上昇滑空しています。ハチドリは片方だけ翼を動かしたり、途中で横向きになって厚みを調整したりと要所要所で様々な行動をして事故を起こさないように対処しているようです。

昆虫は複眼と言って目の構造そのものを変えて素早く変わる景色に対応しているのですが、果たしてマメハチドリはいかにしてこの運転技術を物にしているでしょうか?これはまだ判明していないようです。もしこの謎が解明されれば自動運転技術に更なる進歩をもたらすかもしれません。

 

さて日本でもホバリングをしながら、長い舌を伸ばし、花の蜜を吸っているふさふさした親指ほどの生き物を見かけることがあります。「あ、ハチドリ」だと思ったあなた、つぶらな瞳は愛嬌があるのですが、それはスズメガというガの一種です。

全く別の種の生き物が同じような特徴に行き着くことを収斂進化と言いますが、マメハチドリとスズメガはまさにこの関係です。日本では野生のマメハチドリは生息していません。

 

それでも実物を見たいと言う場合、現在は長崎バイオパークにしかいないようです。ここではチャムネエメラルドハチドリが観察できるようです。広いフラワードームに放し飼いだそうなので、行ったとしてもどこに居るのか分からない可能性もありますが……、それでもいつか行ってみたいですね。2009年に展示を始めたとあります。ハチドリの寿命は飼育下で最長17年と言われていますが、それはよほど幸運なマメハチドリの場合だと思われます。急がなくては間に合わないかもしれません。

 

お読みいただきありがとうございました。

今回はこの辺で失礼します。

 

主要参考文献

ナショナルジオグラフィック』2007年2月号より「羽ばたく宝石ハチドリ」

ナショナルジオグラフィック』2017年7月号より「ハチドリ究極の飛翔術」