永遠の命への一つの解答 ベニクラゲ

生き物が避けては通れない問題のひとつが死です。

ガラパゴスゾウガメやホッキョククジラなど100年を超す寿命を持つ動物がいたとしてもしても最終的には生命活動は終わり、細胞同士の連帯は崩れていき、分子や原子といった要素にまで還元されていきます。

不老不死は大昔から関心を持たれていたようで、中国最初の統一王朝を創ったとされる秦の始皇帝も不老不死の方法を求め、多くの人員を割いてその秘法の解明にあたらせたようです。皮肉なことに長生きができると信じられていた薬が水銀や鉛であったりして、かえって寿命を縮めたとも言われています。

一方で前漢武帝は寵愛していた李夫人を亡くした際に、どうしてももう一目会いたいと言って道教に通じたものを呼んで、反魂香なるものを焚かせ煙をおこし悲願の再会を果たしたという話も残っています。

栄華絶頂を極めた皇帝たちも、自身や愛する者の死に対しては無力であり、それだからこそあらゆる方法を模索したということを感じさせるエピソードではないでしょうか。

近代科学もなお及ばない死を免れる方法に到達したと思われる生き物がいます。今回は不老不死の生物と呼ばれることもある「ベニクラゲ」のお話です。

 

まず一般的なクラゲの生活環を見てみましょう。

卵から孵ったばかりのクラゲは普段見かけるような姿をしてはおらず、プラヌラ幼生と呼ばれるアメーバのような形で水中を浮かんでいます。続いて水底にたどり着くとそこにくっついて生活できるポリプという状態になります。再び水中に戻るために変態したのがクラゲになります。実は、クラゲはサンゴやイソギンチャクと近い種でポリプの状態で完成形になるか、再び水中に戻るかの違いがあり発達の過程では非常に似ています。

さて小さなクラゲは水中でエサを捕りながら成長し、生殖機能を発達させます。そしてつがいになり卵を作るわけです。こうして段々と年老いていきクラゲたちは一生を終えていくわけです。

ところがベニクラゲはどういうわけか全く別のルートを開拓することに成功しました。それは大人から卵に戻るという方向を可能にしたのです。ある程度老化したクラゲは段々と脚が無くなっていき団子状になってしまいます。そして、そのまま浮遊し水底につくと「若かりし頃よ、もう一度」と言わんばかりにポリプを形成し始めるのです。そして再び子どものクラゲとして水中へと浮かんでいきます。事故死や捕食される、病気にかかるなどの事態もありますが、問題がない限りこの生活環を何度も繰り返すことができるわけです。

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ベニクラゲの一生(下記サイトを参考に製作)

 

さらにポリプの時期は無性生殖といって遺伝子的に同一な自分を複製することもあるため、年齢が異なる自分同士、自分の子どもと親が同じ年齢、子どもの方が年上になど、非常に複雑な関係を築いていることになります。

ところでベニクラゲは大人から若返った後でも記憶は維持されているのでしょうか?もし維持されていないとすると不老不死というよりも、輪廻転生に近いような気がします。できれば記憶も保ちたいなというのは欲張りなのでしょうか?何となく不老不死に期待するのは生まれたての自分を何も覚えてない状態でもういちどではない気がするのですが……。

自分の前世の存在にも気づかない状態でやり直せるとすれば、それは不老不死と言えるのでしょうか?自分の子どもが「あなたは元々私の親だったのですよ」と教えてくれるわけもなさそうですし。

とはいえ生物学的には同一の遺伝子を持った生き物が老いや死を克服し、生の時間を保っているわけです。

ちなみに人間の身体の中にも老いや死を克服した細胞が居るのをご存知でしょうか?実は厄介者のがん細胞です。普通の細胞は分裂に限界があり時期が来ると死んでしまうのですが、がん細胞は生育環境があれば際限なく分裂を繰り返していきます。残念なことにそのあくなき生への執着が全体の調和を破壊してしまうわけです。

不死身。不老不死へのあくなき挑戦は、生物界ではすでにいくつかの解答を出しているようです。いつかは人間も老いや死を恐れないですむような時代が来るのかもしれません。

 

ここまで読んでいただきありがとうございました。

今回はこの辺で失礼いたします。

 

〇参考文献

『不老不死のクラゲの秘密』久保田信、毎日新聞出版

 

〇参考URL(図を作る際に参考にしたサイト)

WAOサイエンスパーク フロントランナーVol.12 若返りの方法がここから見つかる!不老不死の生物・べニクラゲがもつ驚異の力

http://s-park.wao.ne.jp/archives/725