科学的な人はホラーを楽しめるか?
科学的な人はホラーを楽しめるか?
書き捨て。
ある心霊ものの映像を見ていた。
曰く付きの部屋に住んでしまった主人公は数々の不可解な現象に遭遇していた。
自分以外誰もいないはずなのに視線を感じたり、足音が聞こえたりする。
洗面所で水が詰まり、奥を覗くと長い髪の毛がぎっしり……。そんなはずはない、主人公は短髪の男性なのだから。恐怖演出の連続に一般の視聴者はきっと恐怖感を感じているに違いない。
そう以下のようなことを考えてはいけない。しかし常日頃科学に従事している身としてどうしても気になってしまう……。
誰かに見られている気がするって?
それはひょっとしたら監視妄想かも、うつ病や統合失調症で頻発する症状じゃないか。脳の誤作動だよ。よほどストレスに晒されているらしいな。ご愁傷様……。
さらに足音まで聞こえたって?
家鳴り?ネズミ?どうしても違うっていうのなら……、いよいよ幻聴まで出てきたってわけだ。ここまで来ると統合失調症の可能性が高くなってきたんじゃないか?ちなみに人の声とかは聞こえないのかい?
見知らぬ髪の毛の束だって?
まずは前の住居人が髪の長い人物ではなかったか確認をとろう。
その可能性が否定された場合は本当に髪の毛かどうか確認しよう、藻の一種とかそういう類かもしれないし。
万が一幽霊の髪の毛だったとしよう。もしそうなら僕は、それはもう興奮する!
幽霊が大好きと誤解されたくないので説明しておこう。説明を聞けばなぜ僕がこんなに期待を膨らましているかが分かるはずだから。
全くの無の状態から髪の毛が突然登場した。これは錬金術師も真っ青、質量保存の法則やエネルギー保存の法則を根底からひっくり返す現象かもしれないわけだ。
しかも、もしこの髪の毛に存在しないはずの人間のDNAなんて検出されてみたまえ、生命の自然発生説はパスツールによって否定されたがそれもここでもういちど議論しなおさなくてはいけなくなる。
まさにコペルニクス的転回!何としてもこの謎を解明しなくては!これが実用されれば食糧問題は解決したようなものだ!
……どうだろう、怖くなくなってきたのではないだろうか。
こう考えて見ると科学者とは素直に物事を楽しめない奴かもしれない。
もうひとつその手の話をしておこう。
あなたも『リング』シリーズを見たことがあるのではないだろうか?最近新作も出るようで日本のホラー映画の代表的存在になっている、黒い長い髪の貞子が出てくる、あれだ。
当時子どもだった私にとってブラウン管テレビとビデオは一時期恐怖の対象となった。
というか今の薄っぺらいテレビよりも、実際にだれか入れそうな分厚さのブラウン管テレビの方が子供心には、はるかに怖かったような気がする。
しかしそんな純粋な少年の心を失い、自然科学に毒され斜に構えるようになった私は以下の疑問がどうしても気になってしまい、素直にこわがれなくなってしまったのである。
あの幽霊がなんともリアリティがあるのはちょうどテレビの画面の大きさが人間一人くらいなら通り抜けられそうなくらいの大きさがあるからである。
ポータブルテレビの時はどうなるのだろうか?ドラえもんに出てくる4次元ポケットみたいに出てくるときは小さいけど、出きったら元のサイズなんだろうか?
それとも最初から最後まで小さいままなのだろうか?
はたまたつっかえてポータブルテレビからは出ることができないのだろうか?
もっと気になるのが劇場版みたいに大きな画面で写した場合、ガンダムみたいなでっかいのが出てくるのだろうか?それとも井戸から画面までの距離が長くなっていては知っても走ってもこちら側にたどり着けないという距離に換算されるのだろうか?
はたまた出てくるときは大きいけれど出た瞬間普通のサイズに縮む……?
ホラーを楽しむためにはまず恐怖をそのまま受け止めるだけのエチケットが必要なのである。野暮なことは言わず恐怖を満喫すればいい。
もう一言だけ、そういえばさっきの髪の毛の話こういう仮説の方が合理的かもしれない。
本物の髪の毛だとなった場合には誰かが君の部屋に侵入し毛を流しで処理したという可能性を考えた方が合理的だ。そして今日も明日もその誰かは主人公の留守を見計らい、毛を処理するために流しにやって来るのである。
あれ、なんだか幽霊なんかよりこっちの方が怖い……?
駄文失礼しました。