敵に見つかれ白と黒の戦艦 ダズル迷彩
敵に見つかれ白と黒の戦艦 ダズル迷彩
1914年6月28日、サラエボでオーストリア皇太子夫妻が暗殺されました。
これはオーストリアの一方的なボスニア・ヘルツェゴビナ併合に対してのセルビアの怒りが爆発したものだったようです。
7月28日にはオーストリアがセルビアに対して宣戦布告。ここに第一次世界大戦が幕を開けました。世界は連合国と同盟国に分かれ全面的な抗争へ突き進んでいきます。連合国側はイギリス・フランス・ロシアを主力にセルビア・モンテネグロ・日本などを擁しました。 一方の連合国はドイツ・オーストリア・オスマン帝国・ブルガリアで結成されました。
この第一次世界大戦は大量破壊兵器が多く使用された戦争でもあり、人間の生活を豊かにするはずだった科学力が皮肉にも多くの人々を不幸に追いやることとなりました。
ガス兵器などは第一次世界大戦で初めて本格的に使用され始め、あまりの非人道性から1925年のジュネーヴ議定書で戦争における化学兵器の禁止を採択しました。もっともこの約束は果たされず以降の戦争や紛争でも度々ガス兵器が使用され第二次世界大戦やベトナム戦争、イラン・イラク戦争で使用されました。1997年には改めて化学兵器禁止条約が成立しましたが、2002年のモスクワ劇場占拠事件に使用されたKOLOKOL-1や2011年シリア内戦でのサリン、2017年に起きた金正男暗殺事件に使用されたVXガスなど未だに使用されているのが現状なようです。
話がわき道に逸れてしまいました。第一次世界大戦時に話を戻しましょう。
第一次世界大戦では海や空にも戦闘が広まっていきました。戦艦や空母、巡洋艦、飛行艇などにも多くの工夫が凝らされていきます。
最初は遠くから近づいた際に相手に見つからずできるだけ接近できるよう地味な配色をしていたのですが、イギリス海軍から1917年にダズル迷彩を施された艦艇が登場しました。
残念ながら第一号と言われる「アルセイシャン」の写真は見つかりませんでしたので、1918年に活動していた英国空母アーガスの写真を載せておきます。
※写真はWikipediaの「ダズル迷彩」の記事から引用。
ダズル迷彩の白と黒が直線的に並んだ特徴的なデザインはキュビズムの絵を見ているかのような芸術性を感じさせます。海上にこのような姿があれば即座に見つかってしまうはずです。このデザインの強みはどこにあったのでしょうか?
このデザインを発案したノーマン・ウィルキンソンによれば船がどっちを向いているのか分かりにくくすることで攻撃がどこからくるかを隠そうと考えていたようです。またそれ以外にも形や大きさが遠目にはつかめず空母なのか駆逐艦なのかぎりぎりまで分からない、それどころか近づいてくるのか離れて行くのかも判別しがたいといったような効果もあったようです。
地味な配色では一度ばれてしまえば苦境に立たされます。しかしダズル迷彩はばれてからが本領発揮、まさに心理の裏をかいた作戦でした。第一次世界大戦ではこのダズル迷彩を施された船が増えていきます。しかし第二次世界大戦に入りレーダーが常備され始めると通用しなくなっていったそうです。
ところで写真を見てある動物が思い浮かびませんか?
全身が白と黒の直線の組合せの動物、そうサバンナでおなじみのシマウマです。
シマウマも草原に居ると目立ってしまいます。しかも群れているわけですから敵に対して「ここにいるぞー」とアピールしているようなものです。彼らの色も敵の目を欺くダズル迷彩なのでしょうか?
今までにもこの縞模様に対して様々な説が出ています。
①個体識別のため、②風の渦を作って体温を下げるため、③全員で固まって大きな縞模様の動物に見せるため……などなど。一番ダズル迷彩に近い考えは③ですね。しかし③だと全員茶色でも同じ効果が出ると思います。茶色の大きな塊に見えればいいわけですから。
ダズル迷彩の艦船が怖いのは攻撃手段がぎりぎりまで分からないことだとすると、攻撃手段を一切持っていないシマウマでは悪目立ちするだけで損な気がしてしまいます。
攻撃手段のないことが判明している派手な彩色の標的は格好の餌食です。一方で距離感が掴めないようにするには役に立っているのかもしれません。子どものシマウマと大人のシマウマが混在していると距離を測りにくくなるのではないでしょうか。
最近では縞模様の理由は防虫対策だという説が有力なようです。サバンナにはツェツェバエという吸血虫が居ます。血を吸うだけでも厄介なのですが、さらにこの虫はトリパノソーマという原虫の運び屋でもあるのです。この原虫が体に入り込むと最終的に脳へ入り込み、睡眠周期が乱れ始め、最終的に目の覚めることのない昏睡状態になってしまうという通称「眠り病」を引きおこします。人を含め多くの哺乳類に感染するのでシマウマも例外ではありません。
ある研究では白と黒の縞模様の方が茶色や黒色、灰色に比べアブ科の昆虫がやってこないことが判明したというのです。最近では愛知県でシマウマ色に塗った牛でも効果があることが確認されニュースになりました。
実はシマウマの縞模様はライオンよりも、ずっと小さなハエのために用意されたものだったのかもしれません。
戦艦とシマウマ、同じ模様でも目的は異なるようです。
それでは今日はこの辺で失礼します。ありがとうございました。