聖アントニウスの火 怒りに触れれば正気を失い手足は腐る

※少しグロテスク注意

 

中世ヨーロッパで猛威を振るった病気がありました。

その名も聖アントニウスの火。

当時はなぜ起こるのかも定かではなく、ある日手足が赤く腫れあがります。そしてそれに伴い燃えるような激しい痛みが生じます。最終的に手足は腐っていきまるで焦げついたかのように黒く変色し最後は崩れ落ちてしまいます。

また精神錯乱に陥り幻覚を見たり、人との会話がままならなくなってしまうということや流産になるということもあったようです。

 

アントニウスに祈ればその苦しみから解放されると信じられており、この病気は聖アントニウスの火と呼ばれるようになりました。現に聖アントニウス派の修道士たちは治療法を持っていたとも言われています。聖アントニウスの怒りに触れたのではないかと人々は手足が腫れると恐怖に打ち震えたのです。

 

 

現在ではこの原因は麦角菌という麦に繁殖する菌が作り出すアルカロイドによる中毒症状であると言われています。

代表的な麦角菌であるC. purpureaはライ麦を始め小麦、大麦、燕麦などでも寄生します。この菌がいると麦の穂の部分に黒い角のような菌核が生じるので麦角菌と言う名がつきました。

この菌が作り出すアルカロイド(窒素を含む有機化合物)は数多くありますが、その内のいくつかは血管を収縮させます。結果として末端に血液が回らなくなり酸素も行き届かなくなり自由が利かなくなったり、痛みが生じたりします。最終的に手足が腐り落ちてしまうのです。

もちろんこの作用は脳への酸素供給にも関係しています。この場合では常に酸欠のような状態になり幻覚を見てしまうと言います。

当時からヨーロッパの主食は麦でしたから、大量に食べると当然アルカロイドもたくさん摂取してしまうわけで中毒症状を呈する人の割合も多くなってしまったのです。

 

現在でも麦角菌は見ることができる一般的な菌ですが、技術力が向上したため麦角菌に感染した麦が食卓にあがることはめったにないそうです。

それに万が一食してしまった場合でも治療法も確立されているため、それほどの脅威ではなくなりました。

幸いなことに稲に感染する麦角菌はいないらしく、日本人の主食の安全は昔から保たれていたようです。

 

それにしても興味深いのは当時の人達が原因を聖性や神秘性にしていたということではないでしょうか。原因と解決法が同じ聖アントニウスであるというのも不思議な感じがします。

現代風に言えばある病気の原因が病院であり、治療するのも病院ということになってしまうからです。つまり「〇〇病院の怒り」という病気があったら、それはもうバイオテロで訴訟待ったなしだと思うのですが・・・・・・。

当時の人達にとって聖アントニウス人智を超えた日本でいうところの神様にあたる存在だったのかもしれませんね。

 

話が脱線してしまいました、それではまたお会いしましょう。