赤十字、赤新月……etc.

赤十字赤新月……etc.

 

白い背景に赤の十字。

病院といえば思わず思い浮かべてしまうくらい有名な記号ではないでしょうか。

国際赤十字赤新月運動(「赤十字運動」)によって運営される戦争や天災時における傷病者救護活動を中心とした人道支援団体のシンボルマークということになります。

つまり国際機関の赤十字運動から許可をもらった団体しか使えない重みのあるマークなのです。

因みに日本では日本赤十字著作権を持っていて、許可なく使用した場合違反者は6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金に科せられる法律があるほどです。

 

さてこの赤十字一体どういう意味があるマークなのでしょうか。

赤十字条約とも呼ばれるジュネーブ条約では、赤十字運動のきっかけを作ったアンリ・デュナンがスイス出身であったため、敬意を示し白地に赤十字といったデザインになったと説明されています(スイスの国旗は赤の背景に白十字)。

 

ところがこの説明に納得を示さない国がありました、オスマン帝国です。

オスマン帝国イスラム教国家、赤十字の十字はキリスト教のシンボルである十字架ではないかと不信感を持ちました。

もともと11世紀から13世紀にかけて、十字軍遠征によってその存在を脅かされてきた歴史のあるオスマン帝国にとって、この十字というシンボルのもとで「人を救おう」ということには抵抗があったのです。

そこでオスマン帝国赤新月(白地に赤の三日月)をシンボルとして使用することを表明し参加することになりました。

現在では全187か国中の34か国がこの赤新月を使用しています。

 

このシンボル論争、キリスト教イスラム教といった宗教の問題が根にあったのですが、中東にはもう一つ大きな宗教とそれを信じている国家がありますね。

そうユダヤ教です、ではユダヤ教を国教とするイスラエルは一体どんなマークを使用しているのでしょうか。

イスラエルの団体(マーゲン・ダビド公社)はユダヤ教のシンボルマークであるダビデの星を使った「ダビデの赤い盾(白地の背景に赤いダビデの星)」を使うことを主張しましたが認められませんでした。

赤十字運動は国を超えた人道支援団体であり一つのシンボルのもとで皆が活動するという理想があったためシンボルが増えることには慎重だったのです。(実際、オスマン帝国が新赤月というシンボルを使うことにも当初反対していました。)

そのためイスラエルの団体は活動こそするものの赤十字運動の正式なメンバーではない状態が続きました。

問題が動いたのは2005年12月8日のことでした、赤十字赤新月国際会議総会で宗教的に中立的なシンボルとして赤水晶(白地の背景に赤いひし形)を採用することにしたのです。

現在イスラエルはこの赤水晶のシンボルを使用して、2006年6月から正式な赤十字運動の一員として参加しています。

ちなみに海外で活動する際は派遣先の国から許可がおりれば、ひし形の中にダビデの星をあしらっても良いことになっています。

 

今は使われなくなった赤獅子(白地の背景、太陽を背にし剣を掲げた赤いライオン)というものもあります。

オスマン帝国赤新月を主張した際、イランもこの赤獅子を主張し許可を受けていたのです(この獅子は古代ペルシャから使用されていた伝統的シンボル)。

Wikipedia赤十字社のページにも掲載されていますので良かったら見てください、かっこいいですが明らかに異質な感じを受けます。

このシンボルは使われなくなっており、現在イランでは赤新月が使用されているようです。

 

 

こうしてみると世界史で習った遠い昔のことが今現在にも影響を与え続けているのだなと考えてしまいます。

そして日本で何気なく使われている赤十字が、世界では非常識だという見方もあるというのは多種多様な文化があることを再認識させられます。

 

それでは今回はこの辺で失礼いたします。

コロギス——コオロギのようでキリギリスみたいな昆虫

コロギス

 

♪あれ松虫が 鳴いている

ちんちろ ちんちろ ちんちろりん

あれ鈴虫も 鳴き出した

りんりんりんりん りいんりん

秋の夜長を 鳴き通す

ああおもしろい 虫のこえ

きりきりきりきり こおろぎや

がちゃがちゃ がちゃがちゃ くつわ虫

あとから馬おい おいついて

ちょんちょんちょんちょん すいっちょん

秋の夜長を 鳴き通す

ああおもしろい 虫のこえ

 

8月も中旬、虫の声がにぎやかになってきました。これから秋にかけて例年通りなら私の家の周りではコオロギやスズムシ、運がよければマツムシも聞こえてくるはずです。

良い機会なので「虫の声」の歌詞を載せてみました。

因みに7段目の歌詞は「きりきりきりきり きりぎりす」という表記のものもあります。

というのも最初はきりぎりすで書かれていて途中でこおろぎに訂正されたという経緯があるからなのです。

よく考えてみればきりぎりすは「チョン、ギース」といった擬音で表現されることが多く、とても「きりきりきりきり」と鳴くようには思えません。

最初の歌詞をつくった人はどうしてこのような歌詞にしたのでしょう?

実は昔の人はこおろぎを鳴く虫全般につかっていたそうでセミすらこおろぎだったそうです、そのなかで現在のコオロギは「きりぎりす」と言われており、現在のキリギリスは「はたをり」と呼ばれていたそうです。うーん、ややこしいですね……。

最終的には現代でも使用されている虫の名前と鳴き声で一致させるために歌詞が「きりぎりす」から「こおろぎや」に変わったと言われています。

 

 

前置きが長くなってしまいました。本題はここからです、皆さんはコロギスって見たことがありますか?

コオロギではありませんし、キリギリスでも当然ありませんよ。正真正銘、コロギス。バッタ目コロギス科です。

見た目はコオロギ似、色はキリギリス似の昆虫です。名前通りコオロギとキリギリスのあいの子みたいな恰好をしています。

もっと言うと全体が緑色で羽が茶色のコオロギにあったことはありますか?ということになります。

コオロギはバッタと違い、外部環境に合わせて色を変えることができません、なのでもしあなたが緑色のコオロギを見たのならそれは全く別の種のコロギスの可能性が高いのです。

 

さてそんなコロギス、どういう鳴き声なのか気になりませんか?

コオロギ寄りに「コロコロコロ」とか「りーりーりーりー」と鳴くのでしょうか、それともキリギリスみたいに「チョンギース」と鳴くのでしょうか?以外にも全く似ても似つかない声で鳴く……?

 

実は、コロギスは鳴けないんです。

 

今度ホームセンターとかで売っているスズムシやコオロギが居たらじっくり観察して見てください。実はスズムシやコオロギ鳴き声は翅(はね)で起こしています。これらの虫の羽はヤスリ状になっていて摩擦が起きやすくなっています。これを素早く振動させてこすってできる音が鳴き声に他なりません。

コロギスにも翅はあるのですが、このヤスリ状になっている部分がないため音が出ないのです。

 

コロギスは脚(あし)やお腹を地面に叩きつける行動が観察できます。

鳴けなくて地団太を踏んでいる……のではなく、これがコロギスの求愛表現になります

なので「とんとんとんとん」といった音を出すのです。

 

もしあなたが緑のコオロギを見かけたらそれはきっとコロギスです。

じゃあその緑のコオロギが流ちょうに鳴き始めたら……?それはコロギスではなく新種かもしれません。

 

それでは今日はこの辺で。

地球照__三日月なのに丸い月が見える……?

地球照__三日月なのに丸い月が見える……?

 

一昨日ふと空を見上げるときれいな三日月が浮かんでいました。

雲も少なく、星がその周辺に光っています。童話に出て来そうなくらい雰囲気が出ています。

しかし、見ているうちにあることが気になってきました。

どうもこの三日月、後ろにぼんやりとこげ茶のまるい影が見えるのです。見間違いかと思って眼鏡を拭いてみるも間違いなさそうです。丸いこげ茶の暗い月があり、その一部分が三日月型に光っている……?

 

何の知識もないので月食でもあったのかと家に帰って調べてみるもそのような記載は見つかりません。単に三日月がでるとだけでした。

最近のインターネットは便利なもので、「三日月 丸い」という矛盾した内容の検索で知りたい知識が引っかかってくれました

どうも地球照という現象だそうです。

 

そもそも月が日によって見え方が変わるのは、太陽と地球そして月の位置関係が変わることに由来しています。

月は丸いままですから物理的に形が三日月になったり、半月になったりは当然しません。あれは位置関係上生じる影なのです。

月、地球、太陽という位置関係なら、月は太陽の光を全面に受けています。この時は満月です。

一方で地球、月、太陽で並ぶ位置だと月が太陽光に当たっている部分の反対側しか見ることができませんから暗くて月が見えません、これが新月ですね。

このような位置関係のずれで月は新月から15日で満月になり、さらに30日目には再び新月になるわけです(正確には27.32日)。

 

つまり地球照は三日月の際に地球にあたった太陽光の反射で、太陽光を直接浴びている部分以外が照らされた状態だったのです。ちなみに月が新月に近ければ真ん丸な地球が見えるそうです。

地球が月の光を浴びているように、月もまた地球からの光を受け取っていたわけです。

そうなると月視点では、真ん丸な地球、半分しか見えない地球、爪型の地球という様々な表情を見せていることになります。なんとも壮大な風景ですね。

 

 

因みに月が満月の時にちょうど地球が太陽の光を遮るような関係になると、これが月食と言う現象になります。

実は太陽の軌道と月の軌道はずれているため太陽、地球、月が一直線になるというのは珍しいことなのです。日本で観測できるという条件を加えるとさらに厳しくなり月食だと、部分月食(つまり地球の影に月が部分的に重なる)ですが2019年1月6日まで待たなくてはいけません。

 

 

文字数に余裕があるのでもう一つ小ネタを。

月っていつも同じ面を地球に向けているのをご存知でしょうか?

天体望遠鏡で月を除くといつも同じ場所にクレーターなどの模様が確認できるのです。

月は地球の周りを一周しているのですが、じつは同じ周期で月自体も回転しているのです。

上に記した通り周期は27.32日。この日数で地球を一周し、まさに同じタイミングで月自身も一回転します。そうなると地球から見たとき常に同じ面を向けていることになるのです。

 

そんな月の隠された一面ですが、宇宙工学の技術進歩は著しく今や航空写真などで確認できてしまいます。すごい時代になったものです。

日本ではJAXAが開発した月周回衛星「かぐや」のホームページで色々な情報を見ることができます。

 

普段何気なく見ている月もまだまだ興味深い秘密をもっていそうです。

 

 

月の話はこちらでもしましたので、まだ見てない方はもしよかったらご覧になってみてください。

takenaka-hanpen.hatenablog.com

 

 

コチニール色素

コチニール色素

世の中は情報社会、あらゆるものに様々な情報が表示されています。
ふと目を落とすと意味の分からない言葉は何気なく並んでいるものです。
例えば食品表示の中などは知らない言葉が多く潜んでいたりします。食事は毎日の暮らしに欠かせませんから何が入っているのか特に気になってしまいます。
今日お昼に食べたサンドイッチの表示には「着色料(カロチノイド、コチニール)」とありました。
カロチノイドはニンジンやトマトに含まれる赤色の色素の総称です。代表的なものにカロテンやリコピン、β-カロテンなどがあります。この中のβ-カロテンはプロビタミンAとも呼ばれビタミンAの材料にもなります。多くは一般的にもよく耳にする天然着色料です。

一方のコチニール、いったいこれは何から抽出されているのでしょうか?
調べてみると意外な答えが見えてきました。


まずは、最も簡潔な『百科事典マイペディア』の内容を見てみます。
それにしても近年は電子辞書の普及で百科事典がすぐに利用できるようになっておりとても便利です。たくさん並んだ百科事典の背表紙や紙媒体のあの質感、調べているという感覚も好きですが、この簡潔さも捨てがたいものです。
話が脱線してしまいました……。

マイペディアにはこうあります。
カルミンとも。紅色の色素でコチニールカイガラムシの雌からとる。食品、化粧品の色づけや、アニリン染料が合成されるまでは生体組織の染色などに使用。〉
なんと虫から抽出されていたようです
それではこのままコチニールカイガラムシの項を見てみました。
米原産のサボテンに寄生する昆虫で、メスは要約すると楕円形、羽のない2㎜ほどの小ささのようです、オスは細長で羽があるとあります。赤色の身体でエンジムシとも呼ばれるようです。

実は日本にもカイガラムシは生息あり農作物につく害虫として有名です。そもそもカイガラムシと呼ばれる理由はメスの成虫が植物につくと白色の蝋や粉を体の周りに分泌した姿が貝殻を被っているように見えたからと言われています。この形になると脚が無くなり動けなくなるものもいます。
殻に見える白い部分は余分な糖分が排出されたものです。カイガラムシは植物から栄養を取るのですが必要最低限の窒素やリンをとろうとすると、どうしても必要以上の糖分を摂ってしまうことになります。これでは体内のバランスが狂ってしまうので排出するのですが、このとき蝋状の油脂に置き換えて出すのです。
この殻は油脂成分のため雨どころか農薬さえ防ぎます。ちなみにラックカイガラムシに関しては、この蝋の方を集めてニスや錠剤などのコーティング剤に使用することもあるようです。

このコチニールカイガラムシから抽出した色素は発色が良くカーマイン・レーキといった絵具の原料や羊毛などの染色、化粧品、食品着色料といった風に、様々な用途に用いられてきたようです。
当時染料として海外に輸出され大きな利益をあげていたとか……。
近年でも人口着色料に比べ安全な天然着色料として使われることが多いそうです。しかしアレルギーなども報告されているため一概に安全とは言い切れないようです。

ベトナムやタイでは昆虫食が一般的だそうでして、テレビで見ていた時は「虫はできれば食べたくないな……」と思って見ていたのですが、これは気づかないうちにカイガラムシを食べていたことになるのでしょうか……?
それとも色素まで形を変えるともはや昆虫食には入らないのでしょうか。

とはいえサンドイッチはおいしくいただきました。
発色のいいハムと卵の陰にはカイガラムシの知られざる活躍があったようです。

それでは今日はこの辺で失礼します。

 

ヒアリ

ヒアリ


2017年5月26日、兵庫県尼崎市で中国から来たコンテナから特定外来生物であるヒアリが日本で初確認されました。
それから次々と確認され10月3日には20事例にもなりました。
特定外来生物特定外来生物被害防止法で認定された生物です。人や農作物、生態系に悪影響を与える恐れのある外国原産の生物の飼育や保管・運搬・輸入が規制されます。
ヒアリカミツキガメブルーギルヌートリアなどと共に2005年4月にこの法律が適用されるようになりました。

ヒアリの学名はSolenopsis invicta (ソレノプシス・インビクタ)。直訳で「負けなしのフシアリ」となります。
ソレノプシンという毒を体で合成し、おしりにある針で毒を注入します。刺されると火傷のような痛みが走ることからヒアリ(英語でFire ant)と言われます。
強い毒性、攻撃性の高さ、繁殖力の高さから在来のアリを圧倒し一気に増えていく傾向があります。日本に入る前にもアメリカやオーストラリア、台湾であれよあれよという内に定着してしまいました。

これだけみると怖いアリだなと思うだけですが、ドーム状のアリ塚を作ってみたり、洪水が起こると全員でイカダを作って浮いてみたりと生物としては非常に面白い存在です。今回はヒアリについて知られざる一面を見てみましょう。

原産地では弱いアリ……!?
ヒアリの故郷はブラジル、アルゼンチン、パラグアイなどの南米です。主にパラナ河が生息地だと言われています。
しかしパラナ河は雨期になると氾濫が起こりやすくアリの住みやすい環境とはお世辞にも言えません。なぜ、ヒアリはこのような場所に住むことになったのでしょうか。
実はこの地域はアクの強いアリがたくさんいるのです。
キノコを栽培することから農業をするアリと呼ばれるハキリアリ、
アリの中でも最強の毒を持つとされるサシハリアリ、
世界最大(3㎝~4㎝)のアリであるディノポネラ、
巣を作らず隊列を組んで移動し道中に居れば大型動物も食べてしまうグンタイアリなど錚々たるメンバーです。
南米はいずれ別記事を挙げたいくらい魅力的なアリ達の宝庫なのです。
その中で見るとヒアリは弱い存在であり、どんどんと追いやられて河まで移動したというわけです。

イカダを作るヒアリ
今年の9月にアメリカのテキサス州を襲ったハリケーンの影響で洪水が起きました。そこでヒアリのかたまりが水面を流れている姿が確認されました。水が増えるとヒアリは巣から出て全員で身体を寄せ合いイカダを作る習性があります。
これは故郷の河の氾濫から身に着けた習性なのです。

敵なしの状況では女王アリが増える
ヒアリの女王アリは1日に1000個以上の卵を産み付けるそうです。通常、女王アリは1つの巣につき1匹です。敵が多い南米では女王を1匹にして統制を優先していると言われています。
しかし、敵がいないところでは女王が複数いる場合があるのです。
こうしてただでさえ強い繁殖力がさらに強化されてしまいます。
アメリカではヒアリ対策に年間約5000億円の損失が出ているとさえ言われています。

沈黙の春』でのヒアリ
1962年に刊行された『沈黙の春』という本をご存知でしょうか?
米国の生物学者レーチェル・H.カーソンが当時の有機塩素系農薬の大量空中散布による野鳥や魚介類への影響や、生物濃縮の危険性を警告しました。
この本が環境問題への関心を高め農薬の規制へとつながったと言われています。
その中の「空からの一斉爆撃」という話の中でヒアリが登場します。
農薬を撒くためにヒアリをことさらに悪者にして、危険性の高い農薬散布を正当化する国と企業に対する意見が述べられています。
中には個人的に対処すれば済む程度の昆虫であるとされていますが、日本で見かけた場合は各都道府県の環境部局に連絡するのがよさそうです。
というのもヒアリは攻撃性が強いため、下手に刺激をすると群れで襲い掛かって来るため思った以上の被害が出ることがあります。
またヒアリに似た在来種もいますのでその見極めのためにも専門家を読んだ方が良さそうですね。

以上ヒアリのお話でした。このまま定着化してしまうのか気になるところです。
グローバル化が進み便利な世の中になると同時に、このような問題が起きている。少なくとも知っておくべきことなのだと思います。

 

参考文献
村上貴弘(2017). ヒアリの生態 昆虫と自然,vol.52,No.11,27-29
レーチェル・H.カーソン『沈黙の春』(新潮社)

秋山豊寛

秋山豊寛

『山川 詳説日本史図録 (第7版)』は年号と共に様々な写真や図が豊富で捲っているとなかなか楽しいものです。歴史小説を読みながら史実はどういうものであったかを確認するのに重宝します。地図帳と共に手放せないものとなっています。
その中で「高度成長期以後の生活・文化①」と言う特集の中で少し気になる記述が見られました。
それは1992年の「毛利衛スペースシャトルで日本人初宇宙飛行」というものです。他にも宇宙関連では1970年の「国産初の人工衛星おおすみ」打ち上げ」があります。
今では日本初の宇宙飛行士は?という質問に関して毛利衛さんの名前を挙げる人が多くいるそうです。実は日本人初の宇宙飛行士秋山豊寛さんはTBSのジャーナリストでもありました。今回は日本人初の宇宙飛行士のお話です。


秋山豊寛さんは1966年にTBSに入社、ラジオ番組制作やBBCワールドサービス日本語放送での番組制作や取材を担当、1984年から1988年までTBSのワシントン支局長を経て外信部デスク(海外のニュースの担当)を歴任しました。
1988年、TBSとソビエト連邦の間で宇宙総局との調印がありました。その内容はソ連宇宙ステーションである「ミール」の取材をTBSの社員が行えるという「宇宙特派員計画」に関するものでした。創立40周年を記念して1400億ドルをソビエト連邦宇宙総局に支払ったそうです。なんとも壮大な計画です。

社内選考の末、選ばれたのが秋山豊寛さんでした。1989年10月から1990年11月まで、モスクワ郊外の星の街の宇宙飛行士訓練センターで訓練を行い、打ち上げ前日の1990年12月1日にソ連の国家審査委員会から宇宙飛行士の承認を受けます。
そして1990年12月2日、秋山さんが搭乗した宇宙船ソユーズTM-11がカザフスタンのバイコヌール宇宙基地から飛び立ちました。

この模様はTBS特番の「TBS宇宙プロジェクト『日本人初!宇宙へ』」で放送され宇宙からの帰還までが連続的に報道されました。
生中継での呼びかけへの第一声は「これ、本番ですか?」だったそうです。

実は毛利衛さんは秋山さんよりも早くNASAスペースシャトルで1989年には宇宙へ行くはずでした。ところが1986年1月28日のチャレンジャー号爆発事件によって計画は延期を余儀なくされました。結果、毛利さんは1992年5月7日に宇宙へと行きました。


全く関係ないですがポンキッキーズガチャピンが1998年8月13日のソ連ソユーズに乗ってミールに5日間滞在したそうです。ただこちらは通信が上手くいかず映像が遅れなかったようですが。中身の人は同じだったのでしょうか?非常に気になりますね……。
ヒマラヤに登ったり宇宙に行ったりと世界でも有数のキャラクターなのではないでしょうか。


1992年の「毛利衛スペースシャトルで日本人初宇宙飛行」。この記述自体は何も間違っていないのですが、やはりここの年表には1990年「秋山豊寛ソユーズTM-11で日本人初の宇宙飛行」も入れて欲しいところです。
そもそもソ連は宇宙開発事業においてはアメリカと同等かそれ以上の技術力を誇っていました。人工衛星の打ち上げもソ連スプートニク1号が1957年10月に成功、アメリカは1958年1月に打ち上げて成功しています。

冷戦のさなかにはアメリカとソ連の間で宇宙を巡る熱い技術競争が行われていたわけです。
現在ソ連は崩壊してしまいましたが、その技術力と科学史上の業績は決して見過ごしてはならないと思います。
秋山さんは帰還後1995年にTBSを退社、農業を行っていたようですが再びマスメディアの世界で活躍されているようです。


それでは今日はこの辺で失礼します。

トゲナシトゲトゲ

トゲナシトゲトゲ

そんな名前の虫がいる。一見するとトゲがあるんだかないんだか判別がつきません。
そもそも見た目から名前が付けられた虫は多いのです。兜をかぶって見えるからカブトムシですしゴキブリも元々は御器かぶり(お皿にかぶりつく)と言う言葉が由来だそうです。
また一方で行動上の特徴から名付けられた虫もいます、例えばテントウムシなどが有名ですね。漢字で書くと天道虫となります。テントウムシを捕まえて手に這わすといつも上向きに歩いて行きます。そして指先までたどり着くと飛んで行ってしまうのです。このような動作が太陽に向かっていると思われたそうです。ついでながらテントウムシは英語でlady bugやlady birdと言われ聖書に出てくるマリアの虫とされているようです。天に向かう虫というイメージは世界共通のようです。

さて表題のトゲナシトゲトゲですがこれは見た目からつけられた名前です。
一体どうしてこんな名前になってしまったのかその過程を見ていきましょう。
そもそも最初に発見されたのはトゲのあるハムシの仲間でした。
ハムシは甲虫の一種で葉っぱを食べて暮らします。大きさや形態には幅があり多様な種類が確認されています。
ハムシは野菜の害虫としての知名度の方が高いかもしれませんね。
よく見かけるハムシは、色は違えど丸みを帯びていて光沢があるイメージですからトゲ付きのハムシは体も細長く一見全く別種の虫に見えてしまうほどです。
これが人呼んでトゲトゲ(トゲハムシとも)です。

その後、トゲがないトゲトゲの仲間が見つかります。それならもうハムシでいいのではないかとも思うのですがそういうわけにもいかないのです。というのも色や外見を見るに明らかにトゲトゲがトゲをなくしたというものだったからです。
以上のいきさつからトゲのないトゲトゲ、トゲナシトゲトゲの名前で呼ばれるようになります。
つまりトゲナシトゲトゲにはトゲはありません。
またネット上ではトゲアリトゲナシトゲトゲというような目を疑う名前が出てきました。
ここまで来るとまるで早口言葉です。
詳細を知るためにネットに上がっていた画像から池田清彦さんの『不思議な生き物——生命38億年の歴史と謎——』という本に行き当たりました。38億年の歴史に見られる生物の進化の工夫がこれでもかと見られて面白い内容でした。
その中の〈「トゲトゲ」はややこしい〉という話にトゲアリトゲナシトゲトゲが登場しています。口絵にはトゲアリトゲナシトゲトゲとしてベニモントゲホソヒラタハムシの写真が掲載されています。
とはいえ話の中ではトゲナシトゲトゲのトゲがあるものが見つかってしまった、これはトゲアリトゲナシトゲトゲということになると言っているだけなので皆がそう呼んでいるわけではなさそうでした。

さらに読んでみるとトゲトゲとトゲナシトゲトゲはどちらが最初の段階なのかが分からないそうで、見つかった順番が違ったらツルツルとトゲアリツルツルになっていたかもしれないと言う話が載っています。

それにしても何とも自由気ままな名前の付け方ですが。こんなことができるのも和名つまり地方名だからだそうです。
「日本の昆虫学会では、なるべく標準和名をつけようという意見もあるのだが、地方名には国際命名規約上の拘束性がないため、どんな名前をつけてもいいことになっている。」とあります。つまり愛好家の中での通り名も和名に入ってしまっているわけです。知名度の高いものもあれば小規模で用いられるものあるそうでややこしいですね。
さてそんなトゲナシトゲトゲですが、最近はホソヒラタハムシという名前も使用されているようです。
池田さんは無粋な名前としています。確かにトゲナシトゲトゲという名前だと「何それ」と興味をかきたてられますが、ホソヒラタハムシでは素通りしてしまいそうです。せっかくこんなに面白い名前なのですからぜひこのままにしておいてほしいものです。


一つに虫の名前をとってみても文化や歴史があるようです。
身の回りにあふれる生き物にこのような物語があると思うとなかなか面白いものです。
普段なら何気なく見過ごしてしまうような名前にもまだまだ秘密が隠されていそうですね。

今日はこの辺で失礼します。

参考文献
『不思議な生き物——生命38億年の歴史と謎——』、池田清彦角川学芸出版