タロとジロと一緒に南極へ行った猫 たけし

タロとジロと一緒に南極へ行った猫 たけし

 

 人類は文明を発展させ様々な場所で繁栄してきましたが、それでも人類の棲息にはあまりにも過酷な土地というのが地球中には存在します。南極もまたその一つに数えて良いでしょう。

 南極での奇跡的な生還を果たしたタロとジロの話は有名です。しかしその南極観測隊の一員に猫のたけしがいたというのはあまり知られていないのではないでしょうか。

 

 まずは南極に行った犬として特に有名なタロとジロの話を振り返ってみましょう。

 

 1956年に結成された第一次南極観測隊は22匹の樺太犬を引き連れ「宗谷」に乗り込み年極へ出発しました。樺太犬はとりわけ寒さに強い犬種とされソリを引く役に抜擢されたのです。ちなみに暑さにはからきし弱いので船に冷房室が設けられていたそうです。

 1957年、乗組員を乗せた「宗谷」は南極付近へ入ります。南極には既に昭和基地があり、そこに冬を南極で越えた越冬隊員が待っていました。しかし天候が安定せず昭和基地行きを断念せざるを得ませんでした。

 翌年の2月アメリカ海軍の艦船により援助を受け、8日に再び南極へ向かいます。11日には待っていた第越冬隊員11名が「宗谷」に乗り込みました。他の隊員が昭和基地を目指します。3名が樺太犬とともに先遣隊として昭和基地にたどり着いたのが12日、しかし天候がまた荒れます。アメリカの艦船もこのままでは氷に囲まれ脱出できなくなるため、先に着いていた3名には脱出の指示が出ます、しかし樺太犬がいるので一次越冬隊員の残した食料でその場をしのぐことを主張します。というのも脱出は重量制限の厳しい飛行機であり、とても全ての犬たちを収容できませんでした。

 最終的な判断は米艦の艦長に委ねられ、結論は撤退でした。しかもその際隊長からは樺太犬たちは後で回収しやすいように鎖につながれたままという条件付きの帰還命令。その際に子犬8匹と母犬のシロ子は連れていくことになりました。

 

 残る15匹の犬たちに2か月分の食糧が分配され隊員たちは昭和基地を後にします。

 何とか飛行機で犬たちのもとに近づくチャンスを探していたのですが期限が迫り、24日無念の日本帰還の命令が本部より下ることになりました。

 その2年後の1959年に第三次越冬隊員が昭和基地へやってきました。犬たちは首輪につながれたままの死体や首輪だけが残った状態を確認しましたが、驚くことに2匹の犬が生存しているのを確認します。これが有名なタロとジロです。この話は映画化もされ『南極物語』になっています。7匹の犬が死亡、6匹はいなくなっており、2匹が生存という結果でした。

 

 さて前置きが長くなりましたがこの第一次南極観測隊にはオスの三毛猫であるたけしが同船していたのです。よく考えると不思議ですよね、樺太犬昭和基地での移動手段としての犬ぞりを引くという重要な役割がありました。ところが猫のたけしは船に居ても南極に居てもすることがありません、それに寒さに強いというわけでもありません。

 その理由は猫のたけしが珍しいオスの三毛猫だったということにあります。日本では航海安全を願って猫を船に乗せるという風習があったそうです。その中でも特に御利益があるとされたのがオスの三毛猫でした。三毛猫は99%がメスになってしまいます。オスの三毛猫は非常に珍しい存在であり特別な存在として扱われていたのですね。

 どうしてそんなことになったのかは遺伝子の仕組みによります。三毛猫の茶色は性染色体で決まるのですが、遺伝子が通常通りに働くとオスは三毛にはならないようになっています。猫も人と同じで性染色体について、メス猫は「XX」、オス猫は「XY」という組み合わせになります。その中でX染色体にある遺伝子は「①黒い毛を全部茶色にするタイプ」と「②黒い毛のままにするタイプ」が存在します。

 ひとつのX染色体にはひとつのタイプしか存在しないため、メスでは2つあるX染色体の内、片方が①、もう一方が②のときだけ三毛猫になるチャンスがあります。ちなみに白の部分がなくなって黒茶になる可能性もあります。そうするとオスは①か②を選ぶしかないので、「①黒を全部茶にするタイプ(結果:茶、白、白茶)」か、「②黒をのこすタイプ(結果:黒、白、白黒)」しかできないはずなのです。つまりオスの三毛猫は何らかの遺伝子の異常でX染色体を2つもった特別な存在ということになり、生まれる可能性はとても低いことになります。

 この伝承にのっとって南極観測隊の「宗谷」に縁起物としてたけしは乗ることになりました。ちなみに、このたけしという名前は第一次南極観測隊の隊長永田武の名前に由来するそうです。国立極地研究所のHPでは、たけしの当時の様子を写真で見ることができます。中には子犬たちと一緒に遊んでいる姿や、隊員達に遊んでもらっている姿があり大変ほほえましいものとなっています。

 たけしは小柄ということもあってか、先ほど述べた子犬たちとともに日本へと帰っています。そして帰国後、隊員に飼われることになったのですが1週間ほどして杳として行方が知れなくなってしまったとのことです。

  さらに言うとカナリアも居たそうなのですが、これは一体どういう理由で乗っていたのでしょうか?気になってしまいます。

 

 今日はこの辺で失礼します。

 ここまで読んでいただきありがとうございました。

 

●参考にしたHP

南極へ行った猫 たけし -国立極地研究所 アーカイブ室

たけしの写真を見ることができます。

 

●参考にした本

こねこのタケシ 南極大冒険阿見みどり著、わたなべあきおイラスト

https://www.amazon.co.jp/こねこのタケシ〜南極大ぼうけん〜-すずのねえほん-阿見みどり-ebook/dp/B00C8CPAH6/ref=sr_1_11?hvadid=334895615260&hvdev=c&jp-ad-ap=0&keywords=%E5%8D%97%E6%A5%B5+%E7%B5%B5%E6%9C%AC&qid=1574005763&sr=8-11

たけしの活躍を絵本で見ることができます。巻末に簡単な解説があります。