インフルエンザ菌 あの病気の原因と勘違いされた菌
最近新聞でもインフルエンザの名前を多く見るようになりました。週ごとに患者数が増えているようでこの傾向は続くようですね。
先に断っておきます。
巷を騒がしている流行性感冒インフルエンザはウイルス性の疾患で病原体はインフルエンザウイルスです。なので細菌に効果のある抗生物質は効果がありません。
しかし世の中にはややこしいことにインフルエンザ菌と呼ばれる細菌も存在します。一体何があったのか?インフルエンザを解明する歴史を追いかけていってみましょう。
発端は1889年から1890年にかけてロシアで大流行し、その後1895年までの間にロシアからヨーロッパ、アメリカと広範囲に拡大し被害を出した人呼んで「ロシア風邪」つまりインフルエンザです。この原因を突き止める研究が世界規模で盛んでした。インフルエンザという用語自体は18世紀にイギリスで感染症が流行った際に日常語になったとされています。
この菌を見つけて分離したとそれぞれ名乗りを上げたのがリヒャルト・プファイファーと北里柴三郎でした。1892年のことです。同じ雑誌に全く同じタイミングで載っているためどちらが先かは不明です、ほぼ同時だったのでしょう。
これが原因菌なのだと言われていたのですが1918年同じくインフルエンザだと思われるスペイン風邪が世界的な感染症になると日本は北里柴三郎の意見を受け入れインフルエンザ菌のワクチンを500万人分用意し接種させたそうです。しかし最終的に効果はなかったと判断するに至りました。
これには無理からぬ理由があります。というのも病気を引き起こす原因にウイルスのような最近よりももっと小さい存在が居ると分かったのは1897年のタバコモザイクウイルス発見からだったのです。すでにインフルエンザの原因である細菌があるのならわざわざウイルスとして確かめなかったのかもしれません。
1919年、アメリカで山内保がベルケフェルト細菌ろ過器で濾した血液や痰に感染能力があることを明らかにしインフルエンザの原因はウイルスであること可能性が指摘されました。最終的に1933年にウィルソン・スミスらによってインフルエンザウイルスの継代に成功。インフルエンザはウイルスによって引き起こされるのだと証明されました。
ちなみにこの山内保さんは扱った本が今年岩波科学ライブラリーから出ています。
当時のパスツール研究所の雰囲気やウイルス学の発展が分かる本なのでおススメです。
さてそんな壮大な勘違いをされたインフルエンザ菌ですが一体どういう菌だったのでしょうか。正式名称はヘモフィルス・インフルエンザ菌。
インフルエンザ菌にも種類があるのですが気管支炎の原因となることもあるそうでインフルエンザと間違われてもしょうがないところもあったようです。
一方でb型と言われるインフルエンザ菌は菌が血液中に広まる菌血症や髄膜炎など重篤な症状を起こすので注意が必要だそうです。この感染症を防ぐためのワクチンはHibワクチンで今でも小児用に使われています。
単なる徒労ではなかったようです。
それにしても科学的な発見に日本人の名前を見ると当時から世界を股にかけて活躍していた人が居たのだなと感慨深くもありますね。
長くなってしまいましたが、ここまで読んでいただきありがとうございました。
ロクショウグサレキンモドキ 木が青く染まっていく
今回の記事ではロクショウグサレキンモドキをご紹介します。
漢字で書くと緑青腐れ菌もどきなので名前からして渋滞を起こしています。
最初に言っておきますがキノコです。
緑青(ロクショウ)とは銅が参加した際に形成される青錆びのことです。皆さんも古い十円玉に青や緑の色がついているのを見たことがないでしょうか?あれが緑青です。
酸素、二酸化炭素、水分と様々な塩分などと反応した結果形成されます。ただし緑青は表面の銅が酸化して生じるのですが、それが膜となって内側の銅を守るように働きます。
鎌倉の大仏も銅像なのですが色が青くなっています。つまりは緑青によって錆びているのですが、そのおかげで長らく姿を保っているのです。
ロクショウグサレキンモドキはこの緑青のような色を持ったキノコと言うわけですね。
さてそうなるとロクショウグサレキンモドキは錆びていて、腐っていて、菌で、しかも偽物という何だか近寄りがたい名前の持ち主ですね。もう少し詳しく見ていきましょう。
キノコはどうやって栄養を取っているかで分類をしています。
植物と一緒に協力関係を築いていれば共生菌、一方で死んだ植物を食べて分解するなら腐生菌です。他にも生きている木から栄養を奪うだけの寄生菌も居ます。
つまりクサレキンとはこの腐生菌であることを意味しているのです。
そしてモドキは元々ロクショウグサレキンというキノコがおり、それとよく似たキノコであることを意味しています。
またキノコは菌なのですがその中でも分類上の区別があります。
いわゆるシイタケのようなキノコと言われると思い浮かべるあの形のものは担子菌類と言います。ロクショウグサレキンモドキはそうではなく酵母やカビを含む子嚢菌類のキノコです。このタイプのものは大きな傘を作ることが少なくロクショウグサレキンモドキの傘も小さくなっています。
どちらもアクアマリンを想像させるような非常にきれいな色をしています。傘の部分だけでなく菌糸にも色があるので木の表面が青みを帯びていく姿も確認できるそうです。
このキノコで青くしたオーク材の工芸品や染め物もあるらしくそれらも一度目にしてみたいものです。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
ハネジネズミ 限りなくネズミに近い姿のどちらかと言えばゾウに近い生き物
皆さんは世界最小のゾウをご存知でしょうか。
それはボルネオゾウです。ボルネオピグミーゾウとも言います。
ちなみにこのピグミーとはホメロスの書いた『イリアス』に出てくる小人族ピュグマイオイに由来します。肘から指先までの大きさおよそ35cmほどの大きさしかなく、冬が来れば鶴と死闘を繰り広げていたそうです。
今でも小人の代名詞として使われ動物だと他にもピグミーマーモセットがいます。
さてボルネオゾウですがボルネオ島に生息するアジアゾウの一種です。その大きさはアジアゾウの7割ほどの大きさです。とはいえやはりゾウ、4トンほどにもなるそうですからアジアゾウの中では小さいと言ってもやはりその大きさは目を見張るものがあります。
というわけで今回はもっと小さいゾウはいないかなと探していたら興味深い生き物に当たりましたのでご紹介いたします。限りなくネズミに近い姿のどちらかと言えばゾウに近い生き物であるハネジネズミです。
何を言ってるんだと思うでしょうからまずは画像をご覧下さい。
つぶらな瞳に、長い口吻、細くて伸びた尻尾、丸くてかわいらしい耳……。
大きさは種類によってばらつきはあるそうですが17cmから30cmとドブネズミ程度の大きさです。
見まごう事なきネズミなのですが、ネズミとはだいぶ前に進化の過程で分かれています。
胎盤がある生き物を大きく有胎盤類と分類します。そしてネズミはその中の北方真獣類の中でさらに枝分かれした先のげっ歯類です。ちなみに人間も北方真獣類の中に居ます。
その一方でこのハネジネズミはアフリカ獣類の仲間になります。アフリカ獣類にはゾウやジュゴン、ツチブタなどが分類されています。
そういった観点から見るとこのハネジネズミは遺伝的に考えるとネズミよりもはるかにゾウに近いのです。
つまりネズミとハネジネズミは先祖は遠い昔に進化の道筋を違えたはずだったのですが、長い年月を経て同じような答えにたどり着いたことになります。こういった別の系統の生き物が似た特徴を持つことを収斂進化と言います。
例えばモグラの手とオケラの手が同じようなスコップになっていたり、ハヤブサは昔はタカのような猛禽類と分類されていましたが、今ではオウムの仲間になっていますがこれも収斂進化の一種です。
こうしてみると遺伝子の柔軟性には驚かされます。
ふと当たり前に見ていた生き物が実は予想もつかないようなバックボーンを持っていることだってあるかもしれないというわくわく感を感じますね。
実は人間のふりをしていたけれど人間じゃなかったなんてSF展開もあり得てしまいそうで、ここまで行くと怖いかも。
読んでいただきありがとうございました。
牛乳 どうしてバターは黄色なのか?
牛乳からバターやチーズができるのは何だが納得がいかないと思いませんか?
最初は白色だったのにどうして最終的に黄色になってしまうのでしょうか。
実は結論から言ってしまうと牛乳は黄色の液体です。これは牛乳に含まれたカロテノイドの色です。なのでバターやチーズが本来の持ち味を発揮しているということになります。
なぜ白色に見えるのかを考えていきたいと思います。
そもそも色とはどういうことなのかと言う点を簡単に整理しておきます。
ニュートンのプリズム実験があり光は様々な波長が重なったものです。なので上手く分光してあげると虹のような各色が取り出すことができます。つまり光はすべての色の混ざった状態です。
そう考えた上で緑色の葉っぱを見てみましょう。これは葉っぱが緑なのではなく緑が反射されているということになります。赤や青は葉っぱに吸収され光合成に使われますが緑は使わないので反射します。
すると人間の目は光の中から緑だけが返ってくるので「葉っぱは緑」と言う風に考えているのです。
では光が全部吸収されてしまうとどうなるか?これは黒色です。
逆に全部の色が返ってくると白になります。
牛乳内には脂肪酸とタンパク質の一種であるカゼインが粒子になって牛乳にまんべんなく存在しています。こういった状態をコロイドといいます。
コロイドたちは光が差し込んでくるとそれをあらゆる方向に反射させてしまいます。
その結果我々の目に帰ってくる光は単一ではなく全部の色が均等に帰ってくることになり、あたかも白色のように見えているのです。
なので暗いところで牛乳を見ると黄色っぽく見えます。これは乱反射する光が弱く本来の色が見えやすくなるためです。
乱反射をして白っぽい色を作る仕組みのものにすりガラスがあります。通常のガラスは無色透明なのですが、これは表面に非常に細かな凹凸があります。そしてこの凹凸が光を乱反射することで景色を見えにくくしているわけです。ただこの細かい凹凸は水をかけるとその隙間が埋まるので透明に戻るというわけです。
普段何気なく見ている牛乳ですがこういった視点で見てみるのも一興ですね。
プラチナコガネ 空飛ぶ貴金属
コガネムシは日本でも一般的な甲虫で都市部に暮らしていてもその姿をよく確認することができます。
何気なく観察して見ると緑のものが居たり、赤っぽいものが居たり、黒い背中に白い斑点が浮き出ているものなどそのバラエティーの豊富さに驚かされます。
ちなみにコガネムシとカナブン、ハナムグリは似てはいますが別物です。
コガネムシは成虫が葉っぱを幼虫が根っこを食べてしまうため害虫扱いされているのに対して、カナブンとハナムグリは成虫が樹液や花粉、幼虫が腐葉土を食べるので益虫扱いされていることが多いです。
一緒くたにされることが多いのですが植物を育てている人達にとっては神経質にならざるを得ない理由があるのです。
よく似てはいますが区別できないこともないです。
ざっくりと言うと全体的に丸みを帯びているのがコガネムシで、角ばっているとカナブンかハナムグリです。またハナムグリには背中に斑点が浮かんでいることが多いのでそれで判別が可能になります。
ハナムグリは花潜りなので花粉を食べるためにせっせと花に入って行く姿が想像できますね。
もし見かけたら以上の特徴を観察して見てください。
中南米にはプラチナの名前を冠したプラチナコガネが生息しています。
色は通常のコガネムシのように緑や赤のものもいるのですが、その中に白や淡い黄色の色彩を持つものが出てくるのです。さらに特徴的なのがそのツヤです。
通常のカナブンでもたまにメタリックな質感をもった子が居ると思うのですが、プラチナコガネになると鏡と同じように周りの景色を映し出せるほどになります。
これらの要素(白や淡い黄色+メタリックな光沢)が合わさり、まるで貴金属を見ているかのようなコガネムシが誕生するというわけです。
金や銀、そして名前になったプラチナといった貴金属の色を網羅しています。
その見た目の美しさから標本も高値で取引されるほどです。名実ともに空を飛ぶ貴金属と言うわけです。
とは言え彼らに金属に似ていると言ってもそんなことは露知らずでしょうから、偶然でここまで昆虫と金属が似た姿になるというのは非常に興味深いことです。
ロクロクビオトシブミ 妖怪の名前をもらった昆虫
皆さんはオトシブミと言う昆虫をご存知でしょうか。
漢字で書けば落とし文となります。辞書を見てみますと何やら言いにくいことを書いて人目のないうちに落っことしておくと言った少し後ろめたい印象の言葉のようです。
何とも殺伐としていますね、脅迫や風刺など警察が動きそうな内容です。こんな名前を付けられた虫なら毒でもあるのかと思ってしまいますが。
実はこれは現代の意味で当時は違いました。この言葉の由来から見ていきましょう。
元々は落首という言葉がありました。らくしゅと読みます。
この首は「百人一首」のように和歌を数えるときの言葉です。つまり和歌などを壁や紙に書いて人目の付くところに置いて名声を得ようとする行為のことだったそうです。
今でいうyoutubeなどのインターネットで作品を公開するようなものでしょうか。
これが後に愛を伝えるようになると落文(おとしぶみ)、相手をなじるような内容のものが落書(らくしょ)と言う風になったそうです。
これが今では落文も落書も区別なく悪い意味で使われるようになったというわけですね。オトシブミになった名前の由来は恋文のほうであって欲しいのですが実際どうなのでしょうか?
さてこのオトシブミですが実は卵を葉っぱに産み付けるのですが、その際に丁寧に葉っぱを折りたたみます。全身を使って我が子のためのゆりかごを作るのです。さらにオトシブミの仲間には葉の付け根を口で切り落としてしまうものも居ます。この葉っぱの形が巻いた手紙、つまり落とし文に似ているので名前が付きました。思わず空けて中身を見てしまいたくなるような可愛い形をしています。
孵化すると内側からその葉を食べて幼虫が成長しますので実際には開けてはいけません。そっとしておいてあげましょう。
さてそんなオトシブミの仲間にロクロクビオトシブミが居ます。
そうあの妖怪の「ろくろ首」です。
実際に見てみるとこれが信じられないくらい首(実際は頭の付け根)が長いです。妖怪の名前に負けていない立派な首をしています。首だけでその他の部分の3倍以上もあり三味線を連想するような姿は現実離れしています。
オスだけが長くメスは普通のオトシブミです。一説によれば首が長いほどモテるそうで命を懸けてお洒落をしているようです。
一度現物をこの目で見てみたいものです。
ミラー・オーキッド ハチにそっくりな花で誘惑する
ミラー・オーキッド ハチにそっくりな花で誘惑する
春になると色とりどりの花が咲くので見ているだけ楽しくなります。
この色はただ美しいだけではなく花粉を運んでくれる生物へのアピールになっています。ここに美味しい蜜がありますというのを表しているわけです。ただし蜜を作るのにもコストがかかっています。ただで配っていると自身への負担が大きすぎて枯れてしまうかもしれません。そのため蜜を出すにはそれなりの戦略があるのですが一般的には花粉を運んでもらい受粉するためということになるようです。
植物の中には蜜以外の強みで勝負するものが居ます。
例えばミラー・オーキッドの花は楕円形の唇弁中央が青黒く輝きその周りは黄色のふちがあり、さらにその外側を茶色の毛が多いますがとても派手な色とは思えません。
しかしその形はまるでそこに暮らしているハチのメスにそっくりな形になっているのです。
青黒い部分が青空を反射する背中の部分に該当しその周辺の色も形もツチバチ科のメスに似せてあります。それどころかメスのフェロモンに似た化学物質まで分泌するというこだわりようです。
交尾をしようとしたオスがこの花にとまることによって花粉が着き、別の花に交尾しようととまることで受粉が完了するのです。
本によればこのようなタイプのランがヨーロッパには100種ほど知られているらしく色々な昆虫に対応しているようです。
何千万年ひょっとすると何億年と試行錯誤を繰り返してこの形にたどり着いたのだと思うと何とも不思議な感じがします。だって植物自体は自分がツチバチにそっくりだということは知る由もないのです、そしてツチバチもまたこの植物が自分に似るように品化したことに思いを巡らすこともないのでしょう。それにも関わらず両者は幾度も繰り返される自然淘汰の末に目を見張るような完成度で似た者同士になるのですから本当にこの進化というシステムは興味が絶えません。
参考URL:
特集:ラン 甘美なる愛の罠 2009年9月号 ナショナルジオグラフィック NATIONAL GEOGRAPHIC.JP (nikkeibp.co.jp)
参考文献: